浦風藤内

憑き護




俺が風邪を引いてしまったときのことだ。
それはもう辛くて、意識も朦朧として、ただ、誰かがずっと手を握っていてくれたことだけは覚えている。
翌日、俺は随分すっきりとした気分で目が覚めた。体がすごく軽い。
布団から体を起こして、誰がずっと手を握っていてくれたのか、気がついた。数馬だ。数馬が俺の布団に倒れこむようにして眠っていた。

俺の風邪をもらってしまった数馬は、そのまま一週間も寝込んだ。
俺は寝込んで苦しんでいる数馬を看病しながら、とても申し訳なく思う。
数馬はいつもこうなのだ。誰かが病気をすると必ず看病してくれる。そして数馬がその病気をもらってしまって、移した本人よりもよっぽど苦しむ。
俺は言った、「十分気をつけるけれど、もしまた病気をしてしまったら絶対安静にしてすぐに治すから、お前は心配しないでくれ。お前にまた移したくはないから」と。
聞こえているのかいないのか、数馬はうわ言のように呟いた。

「僕はつきごだから」

数馬の病気が治ってからその「つきご」とはなんなのかと聞いてみたけれど、数馬はきょとん、と首を傾げた。どうやら覚えていないようだった。
どうしても気になった俺は、図書室の色んな文献を漁ってその「つきご」とやらを調べてみた。ある一冊の本に「憑き護」、という言葉があった。呪いとかに関する訝しげな本だ。その内容を読んで、俺は目の前が真っ暗になった。

数馬は「他人の不幸を引き受けている」のかもしれない。
確証はないのだけど、もしや、と思い当たることがいくつもある。
病気をしたところで数馬に移して完治するなんていつものことだったし、実習だって数馬と一緒になると怪我をするのは数馬ばかりで俺は怪我をしたことなんかない。
俺は怖い。数馬は、いつか大きな不幸を誰かの代わりに背負って、呆気なくいなくなってしまうんじゃないかって。数馬の頼りないようで実はとても安心する笑顔を見るたび、そう思えてならないんだ。

もし、そうなったら、俺はどうしたらいいんだろう。



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