黒木庄左ヱ門
二郭伊助


神奉り




僕たち一年は組のよい子たちは、裏山から流れる川の下流で水遊びをしていた。
もともとは裏山までのランニングをしていて、途中通りかかった川の土手から乱太郎、きり丸、しんべヱがきりもみ回転して川に落ちたことから始まったのだけれど。
助け出そうとして駆け寄った僕たちまで足を滑らせて落ちてびしょ濡れになってしまったものだから、山田先生は呆れ顔で笑って、「今日の授業はここまでにするから、風邪を引かないうちに帰ってきなさい」と言って学園に帰っていった。空気の読める大人ってかっこいいよね。

そんなわけで、僕らは盛大に遊んだ。もう夏も終わろうかという頃だったけれど、残暑はまだ厳しい。ランニングで火照った体に川の水はとても気持ちがよかった。水を掛け合って、競争して。
いつの間にか川岸に座り込んで休憩している伊助に気がついて、僕も川を上がってその隣に腰を下ろした。伊助は未だにはしゃいでいる一年は組のよい子達を微笑ましげに見守っている。やっぱり伊助はお母さんみたいだと思って、僕まで自然と笑みが浮かんだ。

そのとき、川上から僕らのいる川下に向かって流れてくる「何か」に気がついた。
よくよく目を凝らしてみると、箱、だろうか。上に何か乗っている。

「…あれは、」

隣にいた伊助もその「何か」に気がついたようで、息をつめた。
徐々に近づいてくるそれは、箱というよりは小さな小舟のような形をしている。そしてその上に乗っていたのは、二体の人形だ。物珍しさでざばざばと川の中に入っていって、僕が流れてきた箱に手を伸ばした、そのとき。

「庄ちゃんッ!」

突然、伊助の大声が轟いた。まさに雷でも落ちたんじゃないかってくらいの大声だった。驚いて振り返ると、僕を追って川の中に入ってきた伊助が咎めるように僕の腕をぎゅっと掴んだ。

「何?どうしたの?」
「伊助ったら突然大声出して、びっくりした!」

同じように伊助の声で飛び上がったらしい一年は組のみんなが僕らの周りに集まってきた。
僕も何がなんだかわからなくて、まだ僕の腕を掴んだままの伊助の顔を覗き込んだ。伊助は一年は組みんなの顔を一人ずつ確認するように見渡して、ふ、と息をつく。

「…なんでもない。驚かせちゃってごめんね」

その困ったみたいな笑顔は、いつもの伊助だ。みんなも首を傾げながらも、もうそろそろ暗くなってきたし、何かを見間違えでもしたんだろうってそれ以上深くは聞かなかった。
僕らは川を上がって、びしょ濡れになった服を絞って、ぱん、と叩いて水気を飛ばす。それを羽織ると、ひやりとした感触にぶるりと鳥肌が立った。これは早く学園に戻らないと本当に風邪を引いてしまうかも。帰り道、僕らは川沿いをみんなで並んで歩いた。

途中、一人の女性とすれ違う。は組のよい子達が大きな声で「こんにちは!」と挨拶すると、女性はにっこり笑って「こんにちは」と挨拶を返してくれた。しかしその女性が腕に抱えているものに気がついて、僕は驚いた。
女性が抱えている箱、そしてその中にあるのは二体の人形。今まですっかり忘れていたけれど、さきほど川上から流れてきた小舟に乗った人形に間違いない。
僕の隣を歩いていた伊助もそれに気がついたようで、びくり、と肩を震わせた。ぱっと俯いて、何かをぼそぼそと呟いている。よく聞こえなくて、僕は耳をそばだてた。

「…ごめ、…さい、ごめんなさ、」

僕は思わず、伊助の手を取りぎゅっと握り締めた。伊助の手はびっくりするくらい冷たかったけれど、きっと僕の手も同じくらい冷たかったんじゃないかと思う。

すれ違い様、僕は見てしまった。
女性の耳の後ろ辺りから、首筋、背中まで、虫の卵のような白い小さな粒がびっしりと張り付いていた。




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