時友四郎兵衛

ほとけさん




昔、親戚の家に一人でお泊りに行ったときのこと。
そのお家はお母さんの姉にあたる人とその旦那さん、そして僕と年の近い従姉の三人が住んでいた。昼間にたっぷりとお昼寝してしまった僕達は、なんだか寝付けなくてもそもそと起き出した。
隣には従姉の両親が並んで寝ていたが、起きる様子はない。
それを確かめた従姉が、ぼそぼそと僕に耳打ちしてきた。

「ほとけさん、て知ってる?」

従姉が言うには、その「ほとけさん」とやらはとある儀式のようなものらしい。
真夜中の丑三つ時に、寝ている人を真ん中にして二人がその左右に立ち、ぱんぱん、と軽く手を二回打ってから目を閉じて「ほとけさん、ほとけさん、とても怖いものを見せてください」と唱える。
目を瞑ったまま百と八つ数えて、それからそっと目を開けて真ん中で眠っている人を見ると、その顔が「その人の死ぬときにしている顔」になる。とか。

従姉はそれを今からやってみようと言うのだ。
小心者の僕はもちろん渋ったけれど、従姉がどうしてもと言うので押しに弱い僕は流されるまま「ほとけさん」をしてみることになった。
従姉はそろりそろりと自分のお父さんの左側に立った。僕も習うように叔父さんを挟んで右側に立つ。

ぱん、ぱん、「「ほとけさん、ほとけさん、とても怖いものを見せてください」」

僕らは蚊の鳴くような小声で呟いた。それから心の中で百と八を数えて目を開けると、向かいにいる従姉はもう目を開けて、叔父さんの顔をまじまじと覗き込んでいる。

「…なんにも変わってないね」
「うん…」

拍子抜けしたらしい従姉は、すっかりやる気をなくしてしまったらしく「もう寝よう」と言って自分の布団に潜り込んだ。僕も習うように布団に潜り込むと緊張の糸が切れたのかすぐさま眠気が襲ってきて、夢も見ずにぐっすりと眠った。

翌日、叔母さんの悲鳴で目が覚めた。
慌てて飛び起きると、叔母さんが寝ている叔父さんに縋りついて泣いている。従姉もようやく布団から這い出してきて、「お母さんどうしたの?」と眠気眼で呟いた。

その日のうちに僕のお父さんとお母さんがやってきた。
お父さんが慌しくしているのと、泣いている叔母さんの肩をお母さんが抱いて慰めているのを遠目に見ていた。そこに従姉がすす、と傍まで寄ってくる。

「お父さん、死んでたから顔が変わらなかったんだね」

無表情でそう言った従姉が、僕はとても怖くなった。



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