潮江文次郎


神に愛されるということ




「長生きできんね」

すれ違い様に、ある老婆にそう言われた。

「どこで憑けてきたのか知らんが、悪霊なんてもんじゃない。神さんみたいなものだからまず祓えないよ。まあ、成人するまでは持つかね。背後に白狐が見える。守ってくれているよ。…でも、あと数年だね」

それだけ言うと、老婆はいそいそと立ち去っていった。
どうにも気にかかって、一度神社まで行ったとき神主に尋ねてみると、老婆と同じようなことを言われた。

「申し訳ありませんが、どうにもなりません。魅入られるっていうでしょう。気に入られてしまったんですね」
「…俺は信じていません。見えないので」
「そういう気持ちも大事ですよ」
「なぜ、なんでしょう」
「人と同じですよ。好みなんです。昔から、神に好かれると長生きできないと言います」

ほんの数歩の距離にある背中が、酷く遠くにあるように感じていた。
どうして、仙蔵なんだろう。



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