食満留三郎

迷子




昔、まだ俺がガキだったころの話だ。
俺の家のある村は結構大きな集落だったんだが、そのわりに住んでいる人間は少なかった。俺が生まれる前に病気が流行ったとかで、そのときに老若男女問わず何人もやられちまったらしい。実際集落の中には使われなくなって久しい空き家なんかが何軒もあった。

集落の外れ、ほとんど人通りのない場所がある。そういった場所は子供にとって格好の遊び場で、かくいう俺もその辺りでちょろちょろ遊んでいたガキの一人だった。そこは空き家ばかり集まっていたから子供たちの隠れ家みたいなものになっていて、大人たちに黙ってよくそこにたむろしたものだ。

いつも通り子供たちで集まって遊んでいたときのことだ。
俺は石ころを蹴り飛ばして遊んでいた。すると石がとある空き家の前まで転がって、その石を追いかけていくとその空き家の前にそのころの俺よりも小さな子供が立っていたのだ。集落の中では見かけたことのない子供だった。

「おい、お前なにしてんだ?」

振り返った子供がぼろぼろ泣いていたので驚いた。どこの子か、どこから来たのか、いくら聞いてもぐずぐず嗚咽をもらすばかりで要領を得なかったので、やむを得ず俺はその子供を親父のところまで連れていった。
子供も大人を見て安心したのだろうか、一際大きな声でわっと泣き出す。それをなんとか宥め落ち着いた子供から話を聞くと、なんと子供は隣の集落の子だという。隣と言ってもこの集落とは軽く一里は離れていて、子供の足で、しかもたった一人で歩けるような距離じゃない。
どうやって来たのか訪ねても、わからない、とそればかりだ。

仕方なしに、その日のうちに親父がその子を隣の集落まで送るのに出掛けていった。
日が暮れてから帰ってきた親父は、とても難しい顔をしていた。どうしたのかと聞くと、親父は重いため息をついて件の子供の言っていたらしいことを語り出した。

子供が隣の集落の外れで遊んでいたらいつの間にか全く知らない場所にいて、心細くて泣いていたら一軒の家の戸がほんの少し開いた。中から声がして、「お前は悪い子だから入れてやらない、いい子にするか?」と聞いてきた。泣きながらにごめんなさい、ごめんなさいと謝ってもなかなか許してくれなくて、そうしているうちに俺がやってきた、と。
あそこは空き家だから、中に人がいるはずがない。しかし気味が悪いから、お前は金輪際あの場所に近づくな。親父はそう言って、それ以上何も語らなかった。
親父の話を聞いて、納得する。そうだ、あの家は空き家だった。だから誰も住んでいるはずがない。

子供の手を引いて歩く俺を、戸の隙間から恨めしそうに見ている目などあるはずがないのだ。

もちろん、俺はそれからその場所には近づかなくなった。
親父が周りの家にも言って回ったらしく、今はあの場所で遊ぶ子供なんていない。



そこまで話すと、ふーん、と伊作は気のない相槌を打った。何かを考えている様子だった。

「それさあ、もしかしたらその子以外にもいたかもね、気づかれなかった迷子」



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