次屋三之助

おんぶ




作兵衛がなんかヤバい気がして走り出したはいいものの、学園が逃げてなかなかたどり着けないでいた。こんな非常事態なのに、まったく、わけがわからないぜ。いつのまにか街道が逃げて森の中をずんずん進んでいた俺の目の前を急に赤色が横切った。敵かと思って苦無を出しかけたが寸でのところでとどまった。俺の前に現れたのが小さなガキだったからだ。

体に合わない大きな赤い殿中羽織をはおってにこにこと笑って俺を見上げている。なんだこいつ。急いでいるから、と右に避けて進もうとすればそいつも右へ。左に避ければまた左へを何度か繰り返してはぁあとこれみよがしに息を吐いてやった。俺の顔はあまり子供受けしないらしくこれをやれば大抵のガキどもは顔を強張らせて散り散りに逃げていく。そんで作兵衛に殴られる(俺が)

ああ、理不尽。とこの世の不条理を嘆いていると目の前のガキが両腕を上にひょいとあげて一言、おんぶ。意味がわからない。わけもわからない。ついでにいうならここがどこかもわからない。わからないことだらけの頭で少し考えた結果、まあいいか、こいつにも作兵衛探してもらおう。南蛮で言うないすあいでいーあ?ってやつ。俺天才。

背中を向けて屈んでやればすぐにガキの乗った重さが背中に伝わってくる。想像以上の軽さに立ち上がるときに少しよろけたが歩くのには何ら支障はなかった。委員会で鍛えられてますからなあ。きゃっきゃ、はしゃぐそいつにダメ元で作兵衛のいる方の肩の着物引っ張ってなー、なんて言えばぐっと右肩の着物が引かれた。とりあえずそちらに歩き出せば早くしろと言わんばかりに腹が足で絞められる。俺は馬か何かか。

そのあとも左へ、右へ、また右へと背負ったそいつの指示のままに走っていくと古びた寺にたどり着いた。入り口にいるべき石像も壊れて鳥居も半分斜めになっている。明らかに人が訪れている気配の無いここに作兵衛がいるのか、尋ねるように首を後ろに倒せば前髪を掴まれた。早く先にいけって言ってるみたいだった。

腐りかけの閂を外して壊さないようにそうっと扉を開ける。明かりの無い暗がりに転がった五つの影とそれを覗き込むようにした五つの影が見えた。同時に背中から重みが消えて立っていた影を一気にばくんと大きな口が呑み込んだ。ぽかんとしている俺を見て口をモグモグさせていた殿中羽織をはおったでっかい狸はにんまり笑った。

それから俺は覚えていないんだけど、俺は学園まで先生方を呼びに行ってさっさと来た道を戻っていってしまい、先生方がついたころには寺で作兵衛や左門、三年のみんなとくっついて寝こけていたらしい。学園まで行った記憶もないのでたぶんあの狸が先生方を連れてきてくれたんだと思う。俺のお陰だないえーいって言ったら作兵衛に殴られたあとしこたま抱きつかれた。なんで?



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