鬼蜘蛛丸

イクチ




まだまだ元気な年寄りのじいさんがどっかの船を降りると言うので宴会が開かれた。たまたま近くにいた俺まで酒をごちそうになりながらその酒の席で船乗りから聞いた話。

常陸の国の海で漁をしていたときのことだ。網をあげているうちに潮に流されてずいぶんと沖まで行ってしまったらしい。慌てて戻ろうとすると船の遥か先、肉眼でうっすらと確認できるところになにか大きなものが泳いでいる。鯨かなにかかともおもったが泳ぎを見る限りそれはどうやら魚のようだった。

気味が悪くなって急いで浜に向かうもかなか船が進まない。しまいには魚に追い付かれ、船のすぐ横にぴたりとくっつかれてしまった。あわてふためく船員を横目に魚がたぷん、と海に沈んだ。もう大丈夫だろうと胸を撫で下ろした瞬間、バシャンと大きな水音と共に空が暗くなった。

見上げてみると船の上をなにか大きなものが跨いでいる。ぼたぼたと大量の油を撒き散らしながらゆっくりゆっくり頭上を通過していく巨大な魚に、はじめは唖然としていたものの、船に着々とたまっていく油に危険を感じたじいさんは他のやつらに渇を入れつつ油を汲み上げては海に捨て始めた。


「ほんで、その魚がいなくなるまで油の汲み上げやってたもんだから身体中てっかてかでなあ。ばあさんに、なんじゃわし以上につやつやした肌しおってけしからんなんて言われてよお」

あん時ゃ大変だったなあ、と語るじいさんは豪快に笑いながらまた酒を煽った。その時少しだけ汲んで残していた油を町で売ったらいい金になったんだよ、と聞いてうちの船にも来てくれないもんかなと思った。



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