皆本金吾

傘目




戸部先生に剣の稽古をしていただいていたのに。雨粒をしたしたと降らせる雨雲をきっと睨んで僕はため息をついた。

お盆が過ぎてからこのところ毎日のように雨天が続き、やっと晴れたからさあ稽古だと思ったらやり始めて一刻もしないうちに鼻先にぽつんと水が当たった。すぐにざあざあ降りになってしまい、稽古は中断。しかも悪いことは重なってこのあと戸部先生は学園の外に用があるらしく一緒に学園まで帰れないとのこと。すまないな、と傘を一本僕に渡して一本道だから寄り道などせぬようにとだけ言いつけてうっそうと繁る木々の奥へと消えてしまった。

足元が汚れてしまうがいつまでも雨のなかで立っているわけにもいかず僕は学園へと歩を進めた。裏山のそう遠くないここからならばそう時間をかけずに帰れるだろうが、遅くなれば喜三太やみんなになにを言われるかわかったもんじゃない。くの一の子と逢い引きをしているだのあらぬ噂を流された前科を思い出して、知らず知らずのうちに僕は駆け出していた。

びちゃびちゃ泥が跳ねて装束がどろまみれになっている。背中の中程にまで飛んだそれにまた伊助に怒られるなと僕は首をすくめた。門を潜って長屋の部屋の前まできたところで走ったせいで上がり下がりする肩を大きく息を吸ってととのえてびしゃびしゃになった足袋を脱いで廊下を濡らさないようにぎゅっとしぼる。片手にそれをつまみ上げながら屋根のしたで傘を閉じた。


瞬間、僕の目の前が真っ暗になった。



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