不破雷蔵
鉢屋三郎
※意味怖系、現代パロディー


証拠テープ




私達が大学生になって、三度目の夏だった。
私こと鉢屋三郎は、心の友であり一心同体である不破雷蔵と同じ大学、同じ学部学科、同じサークルに所属している。共通の友人には心底気持ち悪がられたが、雷蔵も困ったみたいに笑って許してくれたし、まあ、それはいい。
ことの起こりは、所属しているサークルの夏合宿でのことだった。

普段から遊んでばかりの私達のサークルは、いわゆる「飲みサー」というやつだった。
合宿というのも名ばかりで、海の近くの民宿に寝泊りしながら昼間は海で遊んで、夜になれば酒の入ったどんちゃん騒ぎ。これぞ大学生活の醍醐味というものだろう。雷蔵は酒に弱いので、もっぱらみんなの世話係だったのが気に入らないが。

合宿の最後の夜、みな酒の回り切った席で、一人の先輩があるテープを持ち出してきた。
今時記憶媒体と言えばメモリースティックなのに、ビデオカメラのテープなんて懐古趣味なものを持っているようなイメージの先輩ではなかったので、みな少々面食らっていた。
先輩曰く、「このテープは昔うちの大学の生徒が七人、無人島で全員死んだっていう事件の一部始終が入ってるテープ」、だそうだ。馬鹿らしいと思うだろ?
確かに、そんな事件が実際にあったらしいという噂は知っている。そういえば、私はまるで相手にしなかったのだが、その事件についての記事のコピーとやらを合宿前サークルに持ってきて、みなに見せて回っていたのもこの先輩だった。余計胡散臭い。
けれど酒が入って気も大きくなっていたサークルメンバーはそのテープに大興奮。ある種の肝試しみたいなノリでテープを見てみよう、という流れになった。女子は怖い怖い言っていたが、好奇心が丸出しだ。本当に素面で怖がっていたのは雷蔵だけだった。雷蔵マジ天使。
先輩は古いビデオカメラを取り出すと、それを備え付けのテレビに繋いでテープをセットした。準備のいいことだ。

テープが再生されると、最初は六人の男女が和気藹々としている場面が写った。七人ということは最後の一人はカメラマンのようだ。
詳しい内容は、さすがにちょっと割愛させてもらうが、最初の夜一人の死体が見つかって、それからはまるでパニック映画を見ているようだった。とにかく死体が、人間がリアルで、次々と死体が見つかり最後に女一人とカメラマンの男一人が残る頃には、俺達は重く静まり返っていた。
二人きりの部屋の中で、女が叫ぶ、『あんたが犯人なんでしょう!?こんな状況でカメラ回してるなんておかしいわよ!』男も怒鳴る、『俺じゃない!これは警察に証拠として渡すために、』男が最後まで言い終わらないうちに、女は外に飛び出していった。それを追いかけるようにカメラが慌しく揺れて、突然テープが途切れたかと思えばすぐに無残な女の死体と、首を吊った男が写った。ぎ、ぎ、と紐が軋む音がして、テープは砂嵐になった。

「…これが、七人が全員死んだ事件の顛末だ、どうだった?」

テープを止めて、やけに得意げな先輩だけがにやにやと笑っている。真っ青な顔をしていた男どもの一人が、はは、と空笑いしながら「よくできてんなー」と言って、それに同調するように誰かが「ほんとだなー」と相槌を打った。女子は言葉もないようだ。雷蔵は最初の死体が出てからずっと肩を怒らせたまま硬直している。私は「雷蔵が気分悪いみたいだから先に休むわー」と言って雷蔵を部屋から連れ出した。
二人で廊下を歩いていると、不意に雷蔵が口を開いた。

「…ねえ三郎、あれ本物だと思う?」
「まさか。怖いなら一緒に寝てあげようか雷蔵」
「うるさい黙れ」

怖くて余裕のない雷蔵も可愛い。
さて、それはともかく、あのテープだ。あのテープ、もし本物だと仮定すると面白い。

まず、七人全員死んだこと。
舞台は無人島だ。そこにいる全員死んだのなら、最後の女と男の死体を撮影したのは誰なのか?
そして、最後に首を吊っていた男。
カメラマンはずっとカメラに写っていなかった。それなのに、首を吊っていた男が七人のうちの一人だとわかるのは何故か?
最後に、テープの存在。
もしテープが現場に放置されていたなら警察に回収されるはず。それがここにあるということは、警察の捜査が始まる前に誰かがテープを回収した?

まあ、手の込んだ悪戯、でっちあげだと言えばそれまでだ。
けれどあんな陳腐なもので雷蔵を怖がらせた罪は重いよね、先輩。



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