中在家長次
摂津のきり丸


膝の上




その日は雨が降っていた。
私は図書委員会の当番で、同じように当番である一年のきり丸と図書室の貸出や返却の管理をしていた。こういった雨の日はみな暇をもて余すようで、普段の図書室なら今頃はごった返しているのだが、今日は何やら閑古鳥が鳴いていた。

さあさあと雨の音だけが静かに響く閑散とした図書室に、利用者が一人、いや二人やってきた。生徒でも教師でもない一般人の男と、少女。
学園長がああなので、学内にはちょくちょく部外者が出入りしている。そんな輩に図書室を利用させても良いのかと言えば、まあ、別に構わない。もちろん小松田さんに尋ねればある程度の素性は知ることが出来るし、何よりも下級生や部外者が出入りできるような場所に機密を記したような重要な書物はない。
部外者には貸し出しは出来ない旨を伝え、一般の利用者がいたことを後に報告する。腐っても忍術学園、手練揃いなのでそれで事足りるのだ。
ただ、子連れとは物珍しい。

男は早々に一冊の本を手に取って、隅の机の前に座った。少女も習うように男の膝の上にすとん、と腰を下ろす。それを何気なく眺めていると、不意に少女がぱっ、と顔を上げた。
少女は私の顔をまじまじと見ると、にこ、と笑った。

「あの、中在家先輩、…し、失礼しますっ」

突然声をかけられて顔を上げると、顔を青くしたり赤くしたり、忙しない様子のきり丸が困ったように眉を顰めていた。
何事かと声をかけようとした途端、きり丸はすとん、と私の膝の上に腰を下ろした。
瞬きの合間つい呆気にとられてしまったが、なにやらきり丸の様子がおかしい。顔は湯気が出るんじゃないないかと思うほど真っ赤なのに、不意に触れた手が、驚くほど冷たかった。
私は何も言わず、きり丸を膝に乗せたまま委員会の仕事をこなした。きり丸も、手つきは覚束なかったが同じように仕事をした。

そうして気がつくといつの間にか雨は上がっていて、それを待っていたかのように男は立ち上がり本を棚に戻すと図書室を出て行く。
少女が一度だけ名残惜しそうにこちらを見て、男の後ろをついていった。
途端、きり丸は大きなため息をついた。ため息というよりは、水の中で息を止めて息継ぎに勢いよく顔を出したような息のつき方だった。

「…どうした」

きり丸は酷く申し訳なさそうな顔で私を振り仰いだ。今にも泣き出しそうに見えて、対処に困った。
しばらく黙っていると、ぽつぽつときり丸がしゃべりだした。

「さっきの、子が、中在家先輩を見て、笑って、こちらに来たので、あの、えーと、なんて言ったらいいのか…、多分、今度は先輩について回るんじゃないかと思って…」

私は、きり丸の頭をゆっくりと撫でた。
そうか、そうだな、きっとそういうものだったのだろう。

少女の顔は、左半分が潰れたように削ぎ落ちていたから。

ありがとう、と呟くと、きり丸ははにかむように笑った。



「…何やってるんだ、お前ら」
「あ、食満先輩じゃないっすかー」
「………」
「ん?」
「仲良しだから、とおっしゃっておられます」
「そうか…、まあ、これの返却頼む」
「はいはーい」
「…降りないのか?」
「仲良しなんでー」
「そうか…」



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