七松小平太

山の猿




体育委員会の一環で、とある霊峰で山登りすることにした。
滝夜叉丸は罰当たりだとかなんだかんだ言っていたが、何か悪いことをするわけでもなし、細かいことを気にするな、と言ってやったら黙っちゃったな。
ともかく、その霊峰を目指してマラソンをしていたんだが、さすが霊峰、その道中も結構道が険しかった。私にとってはちょうどいいくらいだったんだが、やはり後輩達にはキツかったのか着いてこれていない。いつの間に見失ったのかわからなかったが、まあ険しいとは言え霊峰までは一本道だし、先に行って下見でもすることにした。

霊峰の麓を目の前にすると、斜面はかなり切り立っていて、しかもかなり高い。
けれど人は行き来しているようで、固く編まれた縄が上から垂れ下がっている。確かにさすがの私もこの縄を伝っていかなければ登れそうにない。面白い。私はその縄に飛びついて、さっそく斜面を登り始めた。

半ばほどまで登ったころだろうか。
足元で「おーい」と呼ぶ声がした。滝夜叉丸達が追いついてきたのだろうか。返事をするのに振り返ろうとした、そのときだった。
ズシン、と急に背中が重くなり、全身がガクンと揺れた。
何かが背中にしがみついている。その何かが、私を落とすつもりか体を揺すり始めたのだ。しかも私の頭巾にまで手をかけて、ぐいぐいと引っ張り始める。抵抗するように背を丸めると、腰に絡みつく毛深い足が見えた。猿か?
とにかく、こんな高さから落ちては私もただではすまない。振り落とされないようしっかりと縄を掴み、しっかりと地面を踏みしめる。
下で怒号がした。甲高い声で、「落とせ!落とせ!」と。
頭巾が脱げると、背中のやつは私の髪を引っ張り始めた。さすがに痛くて、ちょっと頭にきた。

私は縄から片手を離し、その腕を思いっきり後ろに振り切った。ゴギ、と音を立てて肘が背中の何かに当たった。とたん、しがみついてくる力が弱まったので間髪入れず振り払うと、背中の何かはあっけなく離れて、あっという間に麓まで転がり落ちていった。
まずい、殺しちゃったかも。私は縄を伝ってするすると麓まで降りていった。


麓のまで戻ってくると、一人の山伏が立っていた。私の顔を見てぽかん、と口を開けている。

「すみません。ここに何か落ちてきませんでしたか?」

聞くと、山伏はその手に持っていたものを差し出した。私の頭巾だ。そう言うと、山伏は丁寧に畳んだそれを返してくれた。

「上で、猿に出会いませんでしたか?」

不意に、山伏が聞いてきた。確かに猿のようなものに組み付かれてそれを叩き落としてしまった、と一部始終を話すと、山伏は苦く笑った。山伏曰く、その猿は随分前からこの山に住みつき山を登る者に悪さをしているのだという。大抵は転がり落ちて怪我をするくらいだが、時折頭を打って死んでしまう者もいたらしい。

「私はたまたまその仏様を見つけてしまったんですが、ぞっとしましたよ。その仏様に猿達が群がって、割れた頭から味噌を掻き出して食らっていたんですから

ですが貴方に懲らしめられてもう悪さはしなくなるかもしれませんね、と山伏は言った。



「と、いうことがあったんだ!さすがに危ないかもしれないし、追いついてきた体育委員と一緒にそのまま塹壕掘りながら帰ってきたんだがな!」
「………」
「いやあ、あれはあれで面白かったぞ!今度一緒にどうだ長次!」
「………」



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