潮江文次郎





とある実習で寂れた集落へ行ったときのことだ。い組の実習だったので仙蔵も一緒だった。
実習内容は、「呪いについて調べること」だと。馬鹿らしい。そう吐き捨てると、隣の仙蔵も同調したのか溜息をついた。
どうやら隣の集落が、この集落から半ば脅し取られるように作物を買い叩かれたらしい。その言い分が、「呪われたくなれば云々」だそうだ。
集落は小さく、見るからに貧しい。土地は随分と痩せていて川や海もない。この土地柄ならば呪いどうこうと騒ぐのは頷けるが、しかしこの疲弊しきっている村人達相手に、脅しに屈して作物をやってしまうほどの脅威があるとは思えなかった。

ともかく調べてみよう、ということになって俺達は別行動を始めた。
とりあえず聞き込みをしてみようと、旅人のふりをして痩せた老人に話しかける。

「おお、旅の方か、珍しいことじゃ。どうだろう、茶でも飲みながら旅先の話を聞かせていただけませんかな?」

老人がにこにこと愛想よく笑ったので、俺は拍子抜けしてしまった。
これが「呪い」などで脅しをするような村の住人だろうか。随分と善良だ。しかし、その善良さもかえってきな臭いような気もする。
相手は老人だ、いざとなれば腕っ節でどうにかできる。意を決して、俺は招かれるまま老人の住むというあばら屋へ入っていった。

「狭くて汚いところですが、まあ、おあがりください」

中は昼間だというのに随分薄暗く、どことなく湿っぽい。なにより、何か生臭いような臭いがした。
言われるままに座敷へあがると、老人は部屋の隅に置かれた何かのほうへ寄っていった。暗がりで何があるのかはわからないな、と思っていると、老人がそれを持ち上げた。
子供だった。
ぼろぼろのほろに包まった子供が、隅に寝かされていたのだ。その子供を老人がずるずるとこちらに引きずってくるので、俺は慌てた。

「具合が悪いのでは?」
「いえ、この子はずっと臥せっていましてな、退屈しておるのです。この子にもお話を聞かせてやってほしいのですよ」
「はあ…」

子供を俺の前に座らせて、老人は子供を支えるようにその後ろに座った。
ほろに包まれていてよくわからないが、子供は随分痩せ細っていて見るからに痛々しい。この子供がゆっくりと顔を上げた、そのときだった。
体が動かない。
まるで痺れ薬でも食らったように、全身が言うことをきかないのだ。しまった、しくじった、嵌められた。思ってももう遅い。意識を飛ばす寸前に見た子供の顔は、まるで蛇や蜥蜴のように鱗で覆われていた。


目を覚ますと、仙蔵が俺の顔を覗き込んでいた。

「起きたか、馬鹿モン」

がば、と起き上がり辺りを見渡すと、そこは忍術学園の自室だった。
夢か?いやそんなはずは。

「実習中に倒れた。私がここまで運んだんだ」

ぼんやりとしている俺に呆れた、と溜息をついて、仙蔵は事の成り行きを話し始めた。
とある民家で俺が倒れたというのを聞きつけて駆けつけた。連れだと言って俺を連れ出し、俺をここまで連れ帰ったらしい。俺を招きいれた老人は申し訳なさそうに頭を下げたという。曰く、老人の孫に当たる子は病を患っていて、人に移らぬものだからと俺を招き入れたが、病に侵された子供のおぞましい顔を見て驚き倒れたのだろう、すまなかった、と。
驚いた?この俺が?体が痺れたのはなんだ?

「私が知るか。お前の胆が案外小さかったということだろう」

かっと頭に血が上って、憤りに任せてわめき散らそうとした寸前、バターン!と戸を壊す勢いで入ってきたのは、小平太だった。

「文次郎!倒れたって聞いたぞ!大丈夫か!?」
「…小平太、これでも一応病人だ、また明日にしろ」
「そうか、すまん。でも元気そうでよかったぞ!文次郎またな!」

小平太は戸も閉めずバタバタと廊下を駆けていった。それに溜息をついた仙蔵まで、部屋を出て行く。

「…とにかく、今日はゆっくり休め。お前がただで倒れるなんて誰も思っていない。明日には新野先生がいらっしゃるから、症状を詳しく話せ。どんな毒が使われたかわかるかもしれない」

それだけ言って、仙蔵は静かに戸を閉めた。
鬱屈と息を吐いて俺は布団に倒れこんだ。酷く頭が重い。両手で顔を覆って、ふと気がつく。

腕に、うっすらと蛇の鱗のような痣が浮いていた。



「…文次郎のあの痣、大丈夫なのか?」
「ああ、そのままそっくり返してきたからな。明日には全部消えているだろう」
「そうか、仙ちゃんが一緒でよかったなあ文次郎」
「本人は忘れているようだから、そのまま忘れさせてやれ」
「わかった!ところでその老人と子供はどうなったんだ?」
「さあ?食われたんじゃないのか」
「ふーん、まあ自業自得かあ」



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -