能勢久作

暑苦しい




夏の図書室は熱い。この一言につきる。本が日焼けしてしまうからと窓一つ設けられていないこの部屋は夏場地獄とかす。手先の器用な中在家先輩が作ってくれた団扇一枚で乗りきるにはいささか荷が重い。

いまだ現れない本日の当番のペアである不破先輩を待ちつつ貸し出し表をチェックしていく。先輩、いつもなら僕より早く来て先に本棚の整理をしたり(たまにどこに仕舞うのか悩んで立ったまま寝ていたりもするが)しているのに、何かあったのだろうか。

襟元を緩めてはたはた団扇で風を送る。流れた汗が冷えて涼しい。

カラリ。戸が開いた音に続いて生暖かい空気が渦を巻きながら入ってくるのがわかった。外も中とそれほど暑さは変わらないらしい。風がないから余計に暑いんだ。学園の庭という庭に打ち水でもすれば少しは涼しくなるだろうか。


「ごめんごめん、遅くなっちゃって」

「いいえ、珍しいですね。不破先輩が遅刻なさるなんて」

「あはは、三郎のやつに灸を据えてたら時間が過ぎちゃってて」

「…お疲れさまです」

「はは、どうも」

「それで、鉢屋先輩は」

「委員会があるからって勘右衛門が引き摺っていったけど…どうして?」

「…いいえ」


じゃあ、その先輩の背中にぴったりくっついて肩に顎を乗っけそうな勢いで密着している不破先輩は誰なんですか?とは聞けなかった。



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