竹谷八左ヱ門
不破雷蔵
鉢屋三郎
尾浜勘右衛門
久々知兵助
※現在パロディー


肝試し




どうも、竹谷八左ヱ門です。高校生です。夏です。夏休みです。
そんなわけで今から話すのは、俺達のとある夏の体験談。


田舎の夏休みというのはまったく平和なものだ。なぜならばどこにも遊ぶ場所がないのである。
昼間は地元で一番大きなショッピングモール(とは言っても二階までしかない)の、ファミレスのドリンクバーだけでだらだら時間を潰す。夜は唯一開いているコンビニで色々買い込んで、誰かの家にたむろして朝までぎゃーぎゃー騒ぐ。
そろそろそれも飽きてきて、誰かが言った。「肝試ししよう!」異を唱えるやつなんていなかった。

夜な夜な、俺達は一台の軽に五人ぎゅうぎゅうに乗って出かけていった。
運転手は俺。いい場所を知っているという三郎は助手席。後部座席には兵助、雷蔵、勘右衛門の順に座っていて、わーわーとすでに楽しそうだ。
疑問に思った方も居ると思うが、もちろん、俺達は全員無免許である。言い訳みたいだが、田舎なんて車がないとどこにも行けない。参考までに最寄駅まで十五分、そこから隣の駅まで二十分だ。車で。
俺は実家が農家なので、中学生になったぐらいから私有地の中で車の運転をさせられた。そんなことだからか、俺の家族は無免許の俺が外で運転をしたって「捕まるなよ」ぐらいだ。内緒な。

時刻は深夜一時少し前。三郎のナビで辿り着いたのは、隣町の廃病院だった。
路肩に車を止め、みんなで病院の前に並ぶ。病院の白い外観が暗闇にぼんやりと浮かぶように見えて、一言で言えば「壮観」だった。
玄関には人が入れないよう木の板が打ち付けられていて、赤いスプレーで「立入禁止」と書かれている。インクが滲んで垂れているのは、まさに、といった感じ。白い壁には薄汚く蔦が蔓延っていて、窓にも木の板が打ち付けてあった。
田舎の世間は狭く、隣町の病院が潰れたというのは知っていた。しかしここ数年の話だったと思ったのに、たったそれだけの間にこれほど荒廃するものなのか。
ドキドキとしながら踏み入った敷地内は荒れ放題で、草など膝丈以上にまで伸びていた。その藪の中に、草を踏み倒した程度の道がある。進んでみると、唯一木の板が打ち付けられていない割れ窓があった。
俺達は納得した。考えることはみんな同じで、俺達のように平凡な夏休みに飽きた誰かが同じようなことをしにやってきた。そうして道が出来たのだろう。

窓から中に入ると、外以上に暗くもやもやと空気が淀んでいた。入った瞬間どっと汗が吹き出るほど蒸し暑い。すぐさま持っていた懐中電灯をつける。あちこち照らしてみると、中は外観ほど荒れてはいない。しかし床には窓に打ち付けてあったらしい木の板や、泥と土、人の足跡らしきものまであって、やはり誰か入ったような形跡があった。

それから、俺達はみんなで探索を始めた。一階をくまなく回り、同じように二階、三階と階段を上がっていく。一階、二階はそれほど荒れていなかったのだが、三階になるとどこから入ってきたのか鳥などの小動物の死骸が落ちていて、それを踏んづけては「八左呪われたー!」とか「雷蔵のくれるものなら私は呪いでも」「三郎、黙って」とかの一連のテンプレートがあった。
そこまでは俺達もおっかなびっくりしながら肝試しを楽しんでいた。

結局何事もなく、そのままさらに三階の階段をあがると、屋上だった。
屋上の扉を開けた瞬間吹き込んできた風が汗をさらっていって、俺達は一気に解放的な気持ちになる。「終わった」という達成感と、「何もなかったな」という期待はずれ感。調子に乗った三郎が「今度はここで花火でもしようぜ」と言い出して、祭り好きの勘右衛門が乗っかって、兵助が同調して、雷蔵は困ったように笑っていた。
そんなみんなを尻目に、俺は不意に気になって屋上の縁へ近づく。縁は俺の腰より少し高いぐらいで、思わず落ちる想像をして背筋がぞわぞわした。
何気なしに下を覗き込んで、俺は一気に血の気が引いた。

「おい!ライト消せ!」

大きな声をあげて、俺ははっとした。大声をあげたら気づかれるかもしれない。
ぽかん、としているみんなにしゃがむように手で合図しながら自分も姿勢を低くする。みんな困惑しながらも言われた通りにライトを消して、姿勢を低くこちらへやってきた。

「なんだよ八左…なんかいた?」

おどおどと勘右衛門が聞いた。その後ろで、三郎だけがニヤニヤしている。
俺は手招きで三郎を呼んで、「覗いてみろ」と屋上の縁を指す。三郎は肩をすくめて、のそのそと縁へ近づいていった。ゆっくりと下を覗き込んで、背中が反り返る勢いでバッと頭を引っ込めた。ギギ、と音がしそうなほどぎこちなくこちらを振り返った三郎の顔は固かった。

「…やばい、どうしよう。パトカーだ

みんなが一斉に顔を引きつらせた。
屋上の縁から覗いた先はちょうど病院の正面側で、路肩に停めてある俺達の乗ってきた車の後ろにつけるように、一台のパトカーが停まっているのである。三郎が確認できたかはわからないが、パトカーの傍には二人の警官が立っていて、病院の正面玄関をライトで照らしていた。

明らかに出待ちだ。

「…逃げる?」
「車どうすんだよ…」
「………」
「素直に出て行って謝る?」
「雷蔵天使」
「黙れ三郎。全員無免許の未成年だぞ、しかも不法侵入」
「八左を囮に逃げよう」
「吊るしあげんぞ」
「よし、じゃあ三郎をここから吊るしてその隙に逃げよう」
「え、なにそれ勘ちゃんごめんなさいやめて」
「車の中にデザートの豆腐置きっぱなしなのだ…」
「うん豆腐置き去りに出来ないな。やっぱり誰かが犠牲になるのはよくない」
「三郎、黙って」
「はい」
「…とにかく少し様子を見よう」

こそこそと相談して、結局俺達はそのまま真っ暗な屋上に隠れていることにした。それからはみんな一言も話さず、静まり返った空気がずん、と重く感じる。そのうち一階の窓から警官が入ってきて、俺達を追い詰めるように階段を上り、屋上の扉を開けるのではないかと思うと嫌な汗が吹き出た。気分はまさにバ○オハザード2のタイ○ントに追われる主人公だ。

それから、どれくらい経っただろう。
不意に車のエンジン音が響いた。はっとして、俺達は全員顔を見合わせる。恐る恐る縁を覗き込むと、パトカーがゆっくりと発進していくところだった。

「…行った!今だ!」

俺達は一斉に駆け出した。屋上から一気に階段を駆け下りる。突き当たった扉をバン、と開いて気がついた。

「違うここ一階じゃない!戻れ!」

俺達はまた一斉に階段を駆け上って、一階の玄関を通り過ぎ入ってきた割れ窓から脱出した。一斉に車まで走って、俺は運転席に飛び乗ってすぐさまエンジンをかける。全員が乗っているのを確認しまだ近くにいるんじゃないかとビクビクしながら、逃げるようにその場から走り去った。
町と町の境を過ぎた辺りで、誰かがぷ、と噴出する。一斉に笑いが伝播して、俺達は狭い車内でゲラゲラ笑い出した。「そういやあそこ地下もあったんだなあ」なんて呟きには、誰も返さなかったけどな。


それから俺達がその廃病院に入ることは、もうなかった。



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