港和真
ーーーーーーーーーーーーーーー
「……ごめん」

謝る事しか出来なかった。
自分の臆病さが恨めしかった。
謝っても許される事じゃない。
見ていたくせに止める事も助ける事も出来ず、ただ逃げ出した。
我が身可愛さ故に背を向けた。
現実と向き合うことをしなかった。
その結果がこれか。

「ごめん……っ!」

合わせる顔なんてない。もう笑いかけてもらう資格なんてない。
馬鹿だ。本当に大馬鹿だ。
泣く事等許される筈もないのに、止めどなく溢れる雫を止める事すら出来やしない。
情けなく咽び声を上げ、貧血と精神的なショックから、一向に目を覚ます気配のない病室のベッドに横たわるの由香の腕を縋るように強く握り、情けなく詫び続けた。

握っても握っても、返ってくる力はない。

あの後、事情を察したらしい見回りの男性に、とりあえず茜を呼んで来いと言われ、泣きながら走って家に向かおうとした。
その道中、叶夜が見つからないと涙目の可奈を見つけ、二人して号泣しながら家へと全速力で駆け出した。

家へ到着するのと、病院から茜に連絡が入ったのはほぼ同時だったらしい。

「……病院、行ってくるから」

なんとか冷静を装おうとしているのだが、顔面蒼白で、必要最低限の荷物片手に病院へ向かおうとする茜に、自分達も連れて行ってくれと二人して泣き叫び、なんとか病院へと三人で向った。
そして見たものに、和真はただ黙って泣く事しか出来なかった。
笑うと薔薇色に綻ぶ頬には血色というものが全くなく、痛々しい。
輸血ポンプの音だけが虚しくこだまする病室に、可奈は口を抑え、ショックからか黙り込んでしまった。
今の和真に出来たのは、目を覚ますまで由香の側にいてやる事ぐらいだった。
そうする以外、何も出来なかった。

あそこで何か行動していれば、未来は変わったのだろうか。
こんな禍々しい末路に至らなくても済んだのか。
考えても、何をすれば正しかったのか分からなくなる。
あれは、あの二人は化け物という単語以外で表現できる代物ではなかった。
それを、たかが人間の、なんの力も持たない小僧に何が出来た。
浮かんでくるのは、仕方なかった、どうしようもなかった。
そんな言い訳じみた情けない言葉だけ。
自分の弱さに、己の心の醜さに、歯を食いしばり自分の膝を殴れば、じーんと染みる痛みが走る。

「にいさん」

背後から申し訳なさそうに、己を呼ぶ声にハッとし必死に涙を拭い、由香から手を離した。

「……なんだよ」

「お母さんがもう今日は帰ろうって……。叶兄も行方不明だし……帰って待っててあげようよ。ねぇ兄さん、叶兄絶対心配して」

「……ねぇよ」

「兄さん?」

涙目の可奈が首を傾げる。

「……あいつは、帰ってこねぇよ」

震える声を抑え、可奈に背を向けたまま答えた。
瞬間、後ろの可奈が息を呑み、やがて叫んだ。

「どうしてそんな酷い事言うの!?いくら叶兄のこと気に食わないからってそんな言い方!!」

「お前は何も知らないからそんな事が言えんだよ!!」

咄嗟に立ち上がり、振り返って可奈を睨み付けていた。

「何よ……!兄さんに何が分かってるって言うの!?兄さんの分からず屋!!」

「お前こそ何も知らないくせに好き勝手言いやがって!いいか!叶夜はな!」

「二人とも!何やってるの!!」

思わず本当の事を言いそうになった瞬間、手続きを終えたらしい茜が眉を吊り上げ病室に入ってきた。
茜は深呼吸をすると、声のトーンを落とし二人を諭すように、申し訳なさそうに、口を開いた。

「不安なのは分かるけど、落ち着いて。……今は帰って休みましょう。由香ちゃんは大丈夫だから」

「……俺はここに残る」

帰ったところで、叶夜が帰って来る訳が無い。青桐叶夜は死んだ。
名も知らない化け物の手により粉砕され肉片と成り果てた。
思い出せば吐き気が蘇ってくるあの情景。
もう由香を一人にしたくなかったし、正直に言えば自分も不安だったのだ。

「……分かった」

しばしの沈黙を置いて、茜は息子の一言を受け入れた。それは、母の感なのか、なんなのか。
息子のただならぬ決意を読み取ったらしい茜は、泣き喚く可奈を引き連れて病室の戸に手を掛けた。

「ね、和真」

和真は、答えなかった。
ただ前を向き、横たわる由香の腕を握る。

「……無理は、しないでね」

「……わかってる」

「……そっか」

儚げに笑い、茜は去っていった。
暫くすると、簡易式のベッドを持った看護師が現れ、病室内にそれを設置し、和真に、疲れたら寝るように、との一言を残し病室を去って行った。

だが看護師の計らいは無駄になりそうだ。
元より休むつもりなどない。

空いていたのが個室だけだったらしく、回りに誰もいないのは好都合だった。
これ以上、誰かに醜態を晒さなくてすむ。

何時間、椅子に座り由香の寝顔を眺めていただろうか。
いつの間にか、時計は深夜の二時を指していた。
月の光すら届かない新月の夜。
病室内は暗い。このままでは眠ってしまいそうだと、和真はおもむろに立ち上がった。

(ジュースでも買ってくるか)

幸いあの時と違い、小遣いには余裕がある。
小学五年生男子にしては潤っている財布を片手に、病室を出、手短な自販機へと向かう。

(これ、美味いんだよな)

時間が経ったせいか、幾分落ち着きを取り戻し、そんな事を考える余裕が出てきた。
目を覚ますか分からないが、差し入れも兼ねて二本買っていくかと、いつも家で飲んでいるコーラを購入する。

(あいつ、コーラ飲めたっけか)

買ってからそんな初歩的なミスに気が付く。
人の好意を無下には出来ない性格上、きっと無理して飲むんだろうな、あいつは。
そんな事を考えると余計気分は沈んでいく。
ふと、先程の惨劇を思い出す。
瞬間とてつもない吐き気に、思わずコーラを落とし、口を押さえしゃがみ込んでいた。

「ぅ……げは……ぁ……ぅ!」

込み上がってきたものを必死に呑み込み、肩で息をする。
こんなところで参っている場合じゃない。
落ちた二人分のコーラを涙目で拾い、深呼吸すると元来た道を帰って行った。

病室の扉を開けた瞬間、和真は持っていたコーラを再び落とした。
暗い病室の中、先程自分が座っていた場所に誰かがいる。
由香の腕を握り、何事かを囁いていたらしい人影は、缶を落とした音で和真の存在に気が付いたらしく、ゆっくりと振り返り、にやりとその口元を釣り上げた。
赤く輝く眼鏡越しの瞳、見慣れたいけ好かない笑み。

「なん……で……」

それはここに存在してはならない、存在している訳のない人物だった。

「お前……死……んだんじゃ」

こわばる体、震える唇、瞳の焦点は混乱からか定まらない。視界がぐらぐらと揺らいでいる。
赤い、赤い。
鼻を突いたのは、吐き気のする程の血の香り。

「ああ……」

赤い目を不気味に細め、青桐叶夜は自身の口元にべっとりと着いた血を、おもむろに舐めとった。
暗闇の中で赤い目だけが不気味に輝いていた。

「あの程度で、死ぬ筈がないじゃないか」

ぞわっと背筋に鳥肌が立った。
これはどういう事だ。
あの程度。
骨を砕かれ、人間としての原型がなくなるまで分断され、ただの肉と成り果てた。
それが、あの程度だと言うのか。
思い出し、再び吐き気に襲われる。
この男の前でそんな醜態を晒すのは癪だ。

「ぉ……ぼぁ……ぁ……ぁ!!」

気持ち悪い。

矜持云々以前に、人間としての純粋な嫌悪感の方が勝った。
今度は耐え切れず、溜まっていたものを一気にぶちまけた。
瞬間、悪趣味な事に眼前の男は笑みを強める。

「あー!君は!くっ……は……ははは!!!あー……!……弱いよね!」

声を上げて不気味に笑いながら、情けなく地面に突っ伏す和真を笑う。

しゃがみ込み、和真に目線を合わせ、おどけたように笑いながら、地面に突っ伏した和真の前髪を掴み、無理矢理に顔を上げさせる。

「臆病者の偽善者」

「っ……!!」

それだけを言い残し、再び和真が顔を上げた時には、青桐叶夜は部屋から姿を消していた。
次の日の朝、茜、可奈と共に、何事もなかったかのように平然と見舞いに訪れた叶夜に、和真は何も言葉を返す事が出来なかった。

叶夜に強姦紛いの事をされた事を、目を覚ました由香は綺麗さっぱりとはいかないものの、色々と混乱した状態で記憶していたようだった。
それどころか、兄に対し前以上にベッタリと張り付くようになってしまった。
日々やつれていき、心を閉ざしていく少女に、何度そいつを信用するなと、お前の兄貴は化物なんだと打ち明けてしまいたかったか。
だがそんなことをしてなんになる。
余計に由香を傷付けるだけじゃないか。

「くそっ……!!」

虚しい叫びを上げ、ドンっと自室の壁を殴りつけた。
解決策など見つかる筈はなく、堂々巡りを繰り返す。

ショックからか、はたまた叶夜に何かされたのか、あの黒衣の化け物に何かされたのか。

それを知る事は和真には出来なかった。
また、由香を危険から守る事も、今の和真には出来はしなかった。

青桐兄妹が茜の車に乗せられて家を出た直後、和真はあの時の鍵を持ち、一階奥の部屋の前へとやって来ていた。

既に父は感づいていたのだろうか。
その答えはこの扉の向こうにきっとあるのだろう。

開けないことを願う。
父はそう言っていた。
本当に困った時に開けろと。
そうして、こうも。

いつか、己の身を滅ぼす事になる。

だからどうした。
今はこうする以外に道がない。
強くなりたかった。誰かに守られる自分ではなく、誰かを守る自分になりたかった。

臆病者の偽善者。

その言葉は間違っていない。
だが、もう言わせはしない。
守られるのではなく、守れるように。
もう二度と、大切な誰かが傷つく所は見たくない。

「俺はもう、後悔なんてしない」

自分に言い聞かせるように、口を開け、そうして、部屋の鍵を開いた。

「はーい、港嘉隆でーす。茜か?」

「親父」

息子のただならぬ様子を受話器越しの声音から察したのか、嘉隆は間延びした声を改め、あの時と同じ真剣な声音で続きを促した。

「どうした」

「……親父の仕事って、なんなんだよ」

はっと、受話器越しに嘉隆が息を呑む。
扉の中にあるものは商社マンの商売の資料、というにはいささか物騒過ぎた。
机の引き出しの中にあったのは拳銃に、大量の銀弾、そうして同じく銀で出来ているのであろう武器の数々。
本棚に並んでいた本は、一見すれば会社の資料のように細工してあるが、中を開いて見れば、そんなものとは程遠い物騒な代物。
そうして、やたらと目に付く「吸血鬼」の文字。

「……見たのか」

「お膳立てしたのは、あんたの方だろ」

どこまで静かな嘉隆に、対抗するように、色々な感情を込めて呟いた。

「見たなら分かるだろ」

察しろと言いたげな父の声に真っ向から反抗する。

「親父の口から直接聞きたい」

「……わーったよ。……俺の仕事は吸血鬼ハンターだ。……それで?」

「それでって、何が」

「その事実を確認して、お前はどうするんだ?」

嘉隆に言いたい事は一つだけだった。

「お前、知ってたんだな」

「何が?」

「惚けんなよ!!お前!叶夜の事知ってたろ!?」

「ま、これでも一応本職だからな」

なんでもなさそうに言う嘉隆に怒りが湧いてくる。

「だったらなんで……!」

「なぁ、和真」

嘉隆の穏やかだが、それでいて有無を言わせぬ迫力のある声に、続きを言おうとして押し黙った。

「お前は、道を歩いている怪しげな人を、ただ怪しいからってだけで殺してもいいと思うのか?」

父親の言葉に息を呑む。
その喩えはあまりに極端ではないか。

「お前は吸血鬼ハンターってもんを誤解してるから言わせてもらうがな、吸血鬼にも色々いる。それをただ吸血鬼だから、人を襲いそうだからって理由だけで殺めるのは、間違いだ。……いいか、吸血鬼ハンターの仕事はあくまでも人に害なす吸血鬼を狩るってだけだ。無闇やたらに吸血鬼を殺してもいい訳じゃない。だってな、そんな事をしたら、俺達はただの殺人鬼と変わらなくなる。どっちが悪者だか、分かりゃしねぇ」

「でも叶夜は……!」

「俺が見て、知ってる叶夜君は、ただの妹思いの兄ちゃんってだけだ。それ以外は何も知らない」

押し黙る事しか出来なかった。

「ま、怪しいと思う事がない訳じゃなかった。だからお前に鍵を渡しといたんだ。……渡しといて正解だったろ」

それはつまり

「俺が、もっと早くあの扉を開けて、決意を固めて青桐叶夜をぶっ殺しておけばよかった……って、そう言いたいのか」

「……そうじゃない。それだとただの罪のない一般人を殺した殺人犯だ。それに、由香ちゃんの意思はどうなる。兄貴が死んだら、あの子は悲しむぞ」

「なんで話してないのにそこまで知って」

「感だよ、感」

豪快に電話口で笑い、嘉隆は話を続ける。

「当人の意思を無視して話を進めるのは得策じゃない。大事なのは、当人達の気持ちだ。それは部外者のお前が勝手に判断すべき事じゃない」

正論だった。正論だからこそ、次の言葉を紡げなかった。

「いまの由香ちゃんに、そこまで考えるのは、ま、無理だろ。とりあえずは叶夜君の好き勝手にさせとく以外にどうしようもない」

「でも……!」

由香があまりにも報われないのではないか。
何も知らず、忘れたまま、何かを勘違いしたまま、強姦紛いの行いをした叶夜の近くでぬくぬくと暮らす。
それはあまりにも。

「でもはなしだ。突破口はある」

「突破口?」

「時間が経てば、自然と糸口は掴めるさ。強いていうならヒントは、吸血鬼の花嫁。その部屋を調べれば色々出てくるさ。ま、頑張れ若者よ。俺は仕事があるからもう切るぞー」

「は!?なんだよそれ!?おい!親父!?」

問い掛けても返ってくるのは、ツーツー、という断線の音だけ。
くそったれ、そう吐かしながら受話器を叩きつけるように置いた。
そうして、隅から隅まで部屋を調べ尽くした。
遊ぶ時間も惜しんで部屋中にある、ありとあらゆるものを読み尽くした。
そうして知った吸血鬼の花嫁という単語、純銀で心臓を貫かれなければ死なないという吸血鬼の性質、父親が所属しているのは吸血鬼ハンター協会とかいう、訳の分からない組織であること。
最初は半信半疑だったが、吸収した知識、自分が目の当たりにしたものを照らし合わせれば、嫌が応でも現実と思い知らされる。

中学に上がってすぐ、かつての自分を払拭する意味も込めて髪を染めた。
可奈は似合わないだの、ちゃらいだの、ゴタゴタと吐かしていたが、茜はなにも言わなかった。ただ、そっか、と笑うだけだ。

嘉隆が言っていた来るべき時、とやらがいつ来るのかは分からないが、その時の為に万全を期した。
運動神経がなければ対等になる、ましては殺す事など不可能だと、中学高校と、一番練習が厳しい事で有名なサッカー部に入った。
頭もいいらしい吸血鬼に対抗するために、勉強も手を抜かなかった。
そうして、夜はあの時の吸血鬼探しと武器の扱い方の練習を兼ねて、森の中を探索する。

いつ体調を崩してもおかしくないハードな生活を六年以上続けられたのは一重にあの時由香を守れなかった後悔と懺悔、募りに募った思慕があってこそだった。

「港くん、そ、その……ずっと、好きでした!付き合ってください!」

放課後、そうやって呼び出された回数は決して少なくはないと思う。
特に興味もなかったので数えてはいなかったが、鬱陶しいと思う程には呼び出されたのは確かだ。
答えは決まっている。

「悪い、俺、そういうの興味ないから」

断る度に泣かれ、ビンタされ、散々な目に合ってきた。
だが、痛くも痒くもない。

守られる自分じゃなく、逃げる自分じゃなく、怯える自分じゃなく、慰められる自分じゃなく、由香を守れる自分になりたかった。
応えてもらおうなんて思わない。
自分にその資格がないことなど、当事者である和真が一番良くわかっている。
ただ、もう一度。
もう一度だけ、由香の笑顔が見たかった。
それだけだった。

高校二年と三年の間の春休み。
叔母が死んだと訃報が届いた。
そうして、青桐の兄妹がこっちでずっと暮らす事になるとも。
そうか、これが親父の言っていた来るべき時なのかと、和真はどこか納得していた。

久しぶりに見た由香は、綺麗になっていた。
子供の頃の由香を成長させたらこんな感じだろうな、という、正にその通りの成長を遂げていた。
ただ違っていたのは、成長した和真にびくりと肩を大きく震わせ、脅え出した事ぐらいだろうか。

(そりゃ当然だよな)

今や軽く170を超えた身長に、見目に比べればがっしりとした身体つき、染められた金髪は少女の恐怖心を煽るには丁度良かったのだろう。
だがそれすらも好都合だと、和真はあえてシラを切り通した。
嫌われれば嫌われる程いい。

何時になるか分からないが、和真は必ず青桐叶夜を殺す。そう、心に決めていた。

いつか、いつか、また笑って欲しい。
昔のように、心の底から幸せだと。
ただ、ただ、由香の笑顔が見たかった。


* * *

「ぅ…………」

呻き声を上げ、うっすらと瞼を開けた。
視線の先には情けなく前に伸ばされた右腕、頭はじんじんと痛み、頬にはひんやりとした床の感触が伝わる。
痛みの感覚があるところを見ると、自分はまだ生きていたらしい。

散漫とする意識を必死にかき集め、和真は体を動かそうとした。
だが、動かない。指先が微かに動くだけで、とうに港和真という人間に、人として活動する活力など残されてはいなかった。

ああ、死ぬのか。
結局、前と何も変わっていないじゃないか。

そう思うと、自然に自虐的に口元が釣り上がる。
声を上げて笑う気力もない。
だんだんと重たく閉じていく視界。

また、守れなくて、ごめん。

口だけを動かし謝罪を述べ、そのまま意識を経とうとした時。

「ここで死ぬつもりか?」

視界が突き刺すような黒に染まる。
虚ろな視界の中に映り込んだのは一面の黒。
高慢的な態度の声の主は、和真の目の前に立っていた。
だが、顔は見えない。
靴だけが目に入る。
顔を上げる気力はなかった。

だったらなんだ。

「君にここで死なれるのは、私としては不本意だ」

口を微かに動かし、出た、虫の息のような声を聞き取ったらしい男は、はぁと深く溜息を吐く。

好き勝手に何を言ってんだお前は。
そもそも、お前は誰なんだ。

「……私か?」

男の声に残る力を全て振り絞り、顔を上げた。

「ブラッドレイ」

そうして意識を手放す直前に見たのは

「ブラッドレイ・ルフラン」

キース・ルフランとよく似た雰囲気で、キース・ルフランと同じような、しかし少々異なる顔つきの、キース・ルフランではない誰かだった。

≪back | next≫
- 58 -


目次へ


よろしければ、クリックして投票にご協力ください。
 



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -