蛇の毒白Z



「お前は、立場を分かっているのか」

口から出た地を這うような声に、声を発している当人であるアダムは自虐的な笑みを強めた。
眼下には、息を呑み、目を泳がせる最愛の女の姿がある。

「お前は、俺の妻となる立場だ」

発する一言一言に力がこもるのを隠し切れなかった。

「子供の時から、そう、教えてきた」

イヴの両腕を抑えるアダムの片腕に、力がこもる。
水を奪われたまな板の上の鯉は、必死に逃れようと寝具の上で身をよじる。
イヴが動く度に、シーツの上に一つ、また一つ皺が刻まれていく。

「わ……分かっているわ」

哀れな女のか細い抵抗をどこか達観的に見下していたアダムは、イヴの震えながらの肯定の言葉に、その声を荒げていた。

「分かっていないだろう!?」

イヴは兄の一喝に目を閉じ、小さく震え上がる。

「十年だ」

閉ざされていた海色が、赤い目と重なった。

「十年間、お前の為を思って優しい兄を演じてきた」

口の端を噛み締め、イヴはアダムの無様な吐露のその先を待っていた。
その先に何が待つのか、少女には分かっている筈だ。
少女は愚かだが、馬鹿ではなかった。

「お前は、俺だけをその瞳に写し、俺の声だけを聞き、俺の為だけに鳴いていればいいんだ」

男の目の中には、ドロドロとした感情が渦巻いていた。
纏わりつくような、粘着質で薄汚い欲望を瞳の中に宿し、静かながらも狂気を感じさせる毒をイヴに対して浴びせ続ける。

「それを……それをどうして他の男に目を向けた!?」

首を噛み切らん勢いで、アダムが身を乗り出した。
片腕で少女の両腕を拘束し、もう片方はイヴの腋の下に置き自らの二メートルはあろう長身を支える。
少女が間近で見たアダムの瞳は、激しく燃える炉の中の焔そのものだった。
咄嗟にイヴにとれた行動はと言えば、赤い目を涙目で見据えながら「ごめんなさい」を連呼することだけだった。
途端、手首を握っていたアダムの力が、腕をへし折らんばかりの強さに変化する。
痛みに悶え顔をしかめた少女に、アダムが浮かべる加虐的な笑みが一層強まった。

「……蛇に唇を許しておきながら、今更何を懺悔するんだ?」

どっとイヴの拍動が速度を増す。
何故それを知っているのか、という純粋な驚きと疑問。
それと同時に、この人ならきっと全部知っているんだろうな、とイヴはどこか冷静になっている自分に気付いた。
最終的に、ああ、やっぱりばれていたのか、という冷静な考えが少女の頭に居座った。
血の気が引いていくのを感じながら、これから起こるであろう事を遠い目で考える。
無事では済まないだろう。もしかしたら殺されるのか。
それはそれでいいかもしれないな、とイヴは悲観する。

だが、イヴの願いを嘲笑い、男は無慈悲にイヴの纏っていた黒のワンピースの胸元を破り去った。
その意図するところに、遠のき始めていた意識が再覚醒する。

「いやっ!!」

怒っているのなら殺せばいい。むしろ殺して欲しい。
後悔なんて微塵もない。ようやく好きな人に思いが届いた。それだけで満足だ。
だから、お願いだから。

綺麗なままで死なせて。

大人しくしていた体が必死に身をよじり始める。
何度も嫌々、とうわ言のように泣き叫ぶ。

「こんなのは嫌……っ!!」

泣き叫ぶイヴを尻目に、アダムの手が破られたワンピースの胸元を掴み、暴き立てる。
放っておいても問題ないと判断したのか、イヴの両腕をまとめ上げていた片手を離し、アダムは暴かれた少女の胸を力強く揉み始める。

「い……やだっ……てば……!!」

最初はイヴも羞恥に喘いでいたが、痛みがそれに勝ったのか、空いた両手で必死にアダムの胸を何度も叩く。
ろくな抵抗にもなっていないそれに、アダムの中の熱が力を増す。
勢いに任せ、胸にむさぼりつけば、びくんとイヴが背を仰け反らせる。

「か……ぁ……っ」

胸を殴りつけていた腕は空を切り、行く当てをなくした少女の腕は、アダムをなんとか引きはがそうと男の赤毛を掻き毟り始めた。
だが、どんな些細な行いも、愛しい女の行いならばアダムの行為を加速させるだけにしかならない。
目に涙を浮かべ、歯を食いしばり、自身の体を踏み荒らそうとするアダムを、イヴは必死に拒もうとしている。
本当に、この女は、どうしてこんなにも。

笑みを浮かべ、少女の胸をいじり倒しながら、空いた片方の腕でアダムはイヴのワンピースをたくし上げていく。
目を閉じ翻弄されているイヴは気付かない。
自身の太ももが、かつて敬愛していた兄の目に晒されていることに。

「ぁ……う……!?……駄目!!」

声にならない嬌声が、必死の叫びに代わる。
ようやくイヴが現状を把握したのは、アダムが胸への攻めの手を緩め、太ももに手を這わせた頃だった。
つーと、人差し指で下から上に武骨な指を這わせた瞬間、イヴは素っ頓狂な悲鳴をあげる。

「ひ……っ」

「ああ……こういうのがいいのか」

感嘆の声を漏らし、アダムは再度指を這わせる。

「ちょっと待っ!」

抵抗を無視し、数度指を動かし続けた。
その都度、やめろ、だの、嫌だの、言いながらぶるりとイヴが体を揺らす度、愛らしい反応にアダムは笑みを強める。

「本当にいい加減に……!!」

上昇していた機嫌に、イヴは水を差す。
瞬間、ちょっとは優しくしてやろうと思っていたのが全て吹っ飛んだ。

「……そうだな」

温和な笑みを一転させ、不気味な無表情に変化したアダムに、イヴの顔が青ざめていく。
呆気に取られているイヴの上に覆いかぶさり、蛇の記憶を塗り替えかのように柔らかな唇に自身の物を重ね合わせる。それと同時に、今まで太ももを軽くまさぐるだけだった左腕をイヴのドロワーズに掛ける。
瞬間、目を大きく見開き、イヴの動きが止まった。

「や……」

必死に下着を下ろそうとするアダムの指を上から、か細い腕が制止しようと小さな抵抗を試みる。

「大人しくしてろ」

「ん……むぅ」

口づけの間、息をするついでとばかりに口を開き、アダムはイヴの額に軽く口づけを落とす。
一瞬のまどろみにイヴの意識が下から逸れた絶妙なタイミングを見計らい、アダムはぐっとドロワーズを引き下ろした。
抗議の声を上げる暇を与えず、再度唇を重ね合わせれば、声にならない叫びはアダムの口の中に吸い込まれていく。
舌と舌が絡み合い、淫猥な音が静かな寝室にこだましていた。

そのままイヴの花園を暴き立てようと軽く触れた瞬間、アダムの口の中に血の味が滲んだ。
舌打ちをしながら体を起こす。
すっかり手中にあると思い込んでいた眼下の女は、息を切らしながらも勝ち誇った顔をしていた。

「生憎、黙って抱かれてあげるほど優しくはないの」

アダムの舌をがりっと音がする程の力で噛んだイヴは、勝気に頭上のアダムを睨み付ける。
だが皮肉なことに、まっすぐに己を射貫く意志の強いまなざしは、アダムの情欲を煽るもの以外の何物でもなかった。

「しおらしくしているより、その方がお前らしい」

アダムは笑顔だった。それこそ満面の笑みだ。
かわいい子猫を前にしたかのようなゆるみきった顔で、笑っている。

それが、アダムを見上げる形で横たわっているイヴには、心底、恐ろしく感じた。
伊達に16年も兄妹をやっていない。流石にイヴにも分かった。
ああ、自分は今確かにこの男の火に油を注いだな、と。

「屈強な砦ほど、壊し甲斐がある」

口についている、唾液交じりの血を手の甲で拭うと、アダムはイヴの両足の間に、自身の片足を挟み込んだ。
待って、という鳴き叫ぶイヴの制止にまったく耳を傾けずに、両腕でぐっとイヴの足を広げ、その中心を視姦する。

「ぁ……う……」

先ほどまでの強気が嘘のように血色を無くし、むせるように泣くイヴに、アダムの加虐心が大きく刺激される。
ああ、もっと見たい。みっともなく子供のように泣きわめき、縋り、悶え、喘ぎ、苦しむ愛しい女の姿が。
一度堰(せき)を切ったものを、止める事ができる物などなにもない。

「う、ひ、あ、ぁぁっ!?」

まだ固く閉ざされた蕾を、無理矢理男の武骨な中指が押し開いていく。
未だかつて何も押し入ったことのないそこを、自分が踏み荒らしている。
無垢なものを穢すどうしようもない背徳感が、甘美なしびれとなってアダムの背を駆け上っていった。
狭い膣口には指を一本入れるのがやっとだった。
だが、今更ここでやめてやれるほどアダムは優しくはなかった。
歯を食いしばり痛みに耐えているイヴの腕がシーツを掴んでは離し、何度もそれを繰り返し、寝具をもみくちゃにしていく。

「イヴ」

ぐっと、異物を排除しようとする膣の動きに逆らい、奥へ奥へと指を押し込みながら、アダムは堪えるように息を吐き出す。
欲しい。今すぐにでも、この女の中をもみくちゃにしてやりたい。
そんな欲を愛する女の名を呼ぶことで必死に落ち着かせ、イヴが反応するところを探し当てようとする。

「ぁ……」

その時、涙交じりにイヴが微かな喘ぎを漏らした。
不気味なほどに吊り上がっていく口角を自覚しながら、アダムはそこを重点的に刺激し続ける。

「ん……ぁぁ……い、や」

何度も頭を振り、額に汗を浮かべながら、目を固く閉ざし、何度も嫌だ嫌だと繰り返す。

「嫌じゃない」

「い、やだ、って、ば……ぁ」

はぁはぁと、荒い息を何度も零し、襲い来る未知の物から逃れようと抗う。
その瞼の裏には何が浮かんでいるのだろうか。
きっとそこにあるのは赤毛の男などではなく、あのいけ好かない金の瞳をした男なのだろうな、と思い至った瞬間、加減するのも忘れ、アダムは強くイヴの中を刺激していた。

「ふ……っ……あぁぁぁぁ!」

指を締め上げる力が強くなり、イヴの背が弓なりにしなる。
力なく、息を荒くして背からベッドに倒れこんだ少女は、酷く魅惑的だった。
少女と大人の間にいる娘。それが今自分の手の中で一人の女になろうとしている。

片手で両目を覆い隠しながら、イヴは泣いていた。
叫ぶでもなく、ののしるでもなく、ただひっくひっくと声を押し殺して泣く。
哀れ、とも思えるそれを見てなお、アダムの中を満たしていくのはとてつもない幸福感と征服欲だけ。

「ぅ……ぁ……」

指を引き抜けば、微かな声がイヴから漏れ出る。
固く閉ざされていた蜜口は、ほんのりと色付き蜜を溢れさせている。
必死に突きたて、暴きたくなる衝動を必死に抑え、まだだ、まだだと、アダムは突き入れる指の数を増やしていく。
数度、軽い絶頂を迎えてか、びくんと何度かイヴの体が震えを繰り返す。
やがて、きついが、それでも指が三本余裕を持って出し入れ出来るようになった。
聖女そのものだった少女の膣は、抗おうとする本人の意思を顧みることなく、しとどに濡れ、小さく開閉を繰り返しては艶やかに男を誘い込んでいた。
指にべっとりと付着した女のものを舐め取ると、アダムはイヴの肌に、静かに口付けを落としていく。
初めに首筋に赤い華を咲かせ、次いで鎖骨、胸、脇腹、と無遠慮に自分のものだという所有印を刻み付けていく。
中途半端に着乱れた黒いワンピースが背徳感を募らせていき、益々アダムの熱が量を増す。

「イヴ」

決して己を見ようとしない女の名を呼ぶ。

「イヴ」

再度呼んでも、イヴの瞳はその腕の下で閉ざされたままだ。

「イヴ」

耳を食む形で囁かれた名前に、イヴの体が微かに揺れる。

「好きだ」

腕の下に隠された目が、見開かれ、揺れる。
それを知らない男は、一人自分勝手な愛の言葉を囁き続ける。

「……好きなんだ」

刹那、イヴの中に芽生えたのは、怒りでも絶望でもなければ、漠然とした「哀れみ」だった。
それで、この男を許せるのかと聞かれれば、許せない。絶対に。
イヴはそろりと目を覆い隠していた腕を額へと押し上げ、そっと執拗に口付けを繰り返す男を覗き見る。

この男も、根本的には自分と同じだ。

焦がれても焦がれても届かない。
それでも、相手を求めずにはいられない。
叶わぬ思いが胸の内でうずまき、吐き出すあてのない熱だけが蓄積されていく。
不毛なものだ。
それでも、相手に、憎しみでもなんだって、己の跡を残せたのなら、それはどんなに。

アダムと視線がかち合った瞬間、イヴの中に膨大な熱が押し寄せてくる。
眉根に皺を刻みながら、苦し気に息を吐き出しながら、固く熱いものがイヴの体を暴き立てていく。

「……くっ」

イヴの胸に自身の胸を密着させ、少女の背を力強く抱きながら、首筋に歯を突き立てる。
ある程度ほぐしたとはいえ、所詮は生娘。
めりめりという音を立て、押し広げられていく秘所に、イヴの目に涙が滲む。

「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ」

短く喘ぎ声を数度漏らし、イヴは朦朧とする意識で、無心に眼前のアダムの背に爪を立てていた。
ぶちっという音と共に突き破られた少女の純潔を証明し、秘所からは微かに血が滲んでいる。
がくがくと痛みに震え、イヴのアダムの背を掻き抱く力が強くなる。

「……痛いか?」

ぶんぶんと無心で首を上下に振ると、アダムはイヴの背を抱く腕に力を込めた。
ベッドの上に横たわる少女の上に覆いかぶさった野獣は、とんとんとしばしイヴの背を叩くと、出来るだけ、痛くはしないと耳の中に注ぎ込み、ゆっくりと律動を始める。
イヴは元より小柄だ。
二メートル近い巨体と、150程度しかない女では、そもそも体格的に無理が生じてくる。
それでも更なる高みを求めて、アダムは腰を突き入れる。
肉棒がイヴの最奥に当たる度、律動の衝撃にイヴが小さく声を漏らす。

「ぁ、ぁ……っあ」

ぐじゅ、ぐじゅ、という淫猥な音を立て、何度も挿入を繰り返す。
ただでさえ狭い中を締め上げられる度、引きちぎられそうな痛みと、想像を絶する快感が男の中を駆け巡る。
ゆっくりだった律動は次第に速度を増し、ぐじゅぐじゅとどちらのものとも分からない粘液が混じり合い、ぶつかる音も次第に激しさを増していった。

「は……」

持っていかれそうになるのを歯を食いしばり必死に耐えながら、アダムは少しでも長くイヴの中を味わおうと、深く溜息を吐く。

「イヴ……っぐ」

「ふ……ぁ、ぁぁ、ぁ」

口からみっともなくよだれを零し、蹂躙されている少女は己の名を呼ぶ声に僅かに声を上ずらせる。
淫らな水音が部屋にこだまし、視覚でも、聴覚でも、アダムの欲を刺激する。
必死にアダムの首に腕を回し、喘ぎ声を漏らしながらも応えようとするイヴに、これ以上膨らむことのないと思っていた欲望が更に肥大する。

「ちょっ、ぁ、と、う、ぁ、ひゃあ!?な、ぁ……んでっ、ぁ、あ、お、お、ぁっ、き、くして…ぁ!」

「……お前が悪い」

半ばやけくそだ。こっちにだって余裕がない。
それをなんて煽り方をしてくれるんだお前は。

「は、ぁ、あ!?ちょっとほんとっにっ……!ひぁぁぁぁ!?」

必死に腰を引き、逃れようとするイヴの中に杭を打ち込み、腰を掴み、果てを目指して律動を速めていく。

「イヴ」

苦しみ、快楽に喘ぐイヴの耳元で囁く。
額に浮かんだ汗がイヴの胸元に落ちる。

「……愛しているよ」

瞬間、きゅんと中を締め上げる力が強くなる。
びくんびくんと、絶頂を迎えたのか瞳を強く閉ざしたイヴの中が、何度も収縮を繰り返す。

「は……」

それが男の限界だった。
更に奥に肉棒を差し込み、少女を抱きつぶさんばかりの勢いで強く掻き抱き、イヴの最奥で白い欲望を解き放つ。
中に放たれた事にも気付かず、最奥に放たれた熱にびくんとまたしても体を仰け反らせ、何度もまだ中に鎮座しているアダムのものを締め上げる。

衰えることなく再び高ぶってくる熱に、暗い喜びがアダムの中を満たしていく。
虚空をうつろな眼差しで見つめるイヴの唇に、静かに口付けを落とす。
聞こえていなくても別に構わないと、アダムはイヴの耳へとあからさまな欲情のこもった言葉を囁く。

「早く孕めばいい」

枷は多いほうがいい、と独り言を零し、言葉を続ける。

「もうこの屋敷からは出さない」

ちう、と耳の裏に口付けを落としながら、男は甘やかに毒を吐く。

だから

「安心して、抱かれていろ」







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