アンドロイド臨也 | ナノ


※臨也アンドロイドの話です





「静雄もさー…、そろそろ彼女作れば?」

突然告げられた言葉に静雄は目を丸くした。一方の新羅はコンビニパンを頬張りながらまるで心配などする欠けらもなくただパンへ噛り付いていた。暫く目を丸くしていた静雄だったが、眉を寄せ何かを悩むような表情を浮かべた。静雄の手に握られていたコンビニのお握りはまだ全然手が付けられていない

「彼女とかよ、居なきゃ、駄目なもんなのか?
っつーか、必要なのか…?」

新羅へと問い掛けられたものはまるでモテない男の台詞に感じられた。新羅は暫くその言葉に悩んでいたが眉を八の字に下げ苦笑をするような表情で小さく首を振った。静雄はまさかあの新羅が、とばかりに多少驚いた表情をしていた。すると新羅は一息付いた後頬杖をつき喋り出した

「彼女ってさ、必要とか必要じゃないは、付き合ってから決めるもんなんだよ。俺にはこの人しかいないって思えば必要、まあ必要じゃないはその反対、だね」

告げられた言葉はやはり経験者特有の意見であった。だが、恋のよくわからない静雄にすれば新羅の言っている事は当然理解が出来なかった。溜息を付き机に勢い良く腕を延ばすと同時に顔を突っ伏した。新羅はまだ早いかな、などと思いながら苦笑を浮かべるも、静雄ももう二十歳を過ぎていた。そろそろ彼女の一人や二人くらい経験を積み結婚に向けているのが普通であった。だが新羅も新羅で、己も真面目に結婚をと考えたが流石にデュラハンとの結婚は出来ないかと肩を竦めた。すると静雄は口を開いた

「小学生時は年上のお姉さんとクラスで人気な女子を好きになった。中学は恋なんざしてる暇なんてなくて出来なかった。高校は、まあ、クラスの女子に告白されてノリで付き合ったけと理想とは程遠くてすぐ別れたから好きな奴は居なかった。大学も微妙だし、今なんてもっての他だ」

「静雄ってストライクゾーンそんな狭かったっけ?」

「いや、別に。取り敢えず性格よくて、明るい長髪の女ってのが条件だったな」

気怠げに未だ机に顔を突っ伏した儘静雄は淡々と喋り続けた。小さい頃から恋なんて出来なく、だが告白された回数は妙に自慢できる程多かったが、結局は誰とも付き合わなかった。そんな事もあったな、などと過去を振り返る静雄はまるで同窓会で思い出を語る者と似ていた。不意に勢い良く静雄が顔を上げたと思えば携帯を勢い良く開き何かをし始めた

「…静雄、何してるの?」

「いや、そういやそろそろトムさんとの約束時間だと思ってよ」

「…相変わらず、だね」

携帯を弄っているのは多少遅れると静雄の扱いを中学から慣れていたトムにメールを送る為であった。慣れないながらに必死にメールの文を打ち終わると小さく送信、と呟きメールを送信し深く息を吐き出した。恋愛の話など静雄には縁がないもので、恋愛話をしていると肩が懲りそうと言いたげなように新羅は窺えた。小さく溜息を付き残りのパンを口に含ませ軽く噛み飲み込むと静雄は新羅へと視線を向けた。新羅は此方へ視線を向けた静雄に笑みを浮かべた

「恋っていうのは、ストライクゾーン云々じゃなくて突然来るんだよ。だから静雄はその突然を見逃さないようにね」

そう告げると新羅は白衣のポケットから「恋までの10ヶ条」などというありがちな題名の書かれた恋愛小説を置き一言じゃあね、と告げ去っていった。静まった自宅のリビングは妙に静かなもので一瞬だけだが寂しく感じた

(恋人、か)

心の中で小さく呟き静雄は残りのコンビニお握りを一口で頬張ると流石に残りのサイズが大きかったのか数回咳き込みペットボトルの蓋の外された飲み口に唇を押し付け一気に中身のお茶を飲み込んだ。暫くすると落ち着いたのか一度静かなリビングを見渡した

(俺は、寂しいのか?)

自問自答なんてキャラではなかったが自らに問い掛けただ答えを求めていた。だがふと何かを思い出すと静雄は勢い良く立ち上がり玄関へと向かえば靴を慌てて履きトムの場所へと向かった


*


帰ってきたのは朝方だった、疲労の溜まった体で階段を上がり自宅の目の前まで行くとそこには大きな段ボールが置かれていた。近づき警戒しながらも段ボールを隅々まで確認したが、どうやら送り主の住所は書かれていないようだ。深い溜息を付き渋々ながらも多少重めの段ボールを持ち上げ室内へと持ち込んだ。暫く寝る準備をしながら気になる段ボールへ視線を向けていたが、やはり中身は気になるもので寝間着へと着替えてから段ボールへとゆっくり歩み寄った。中身は何かなどというのは想像もつかず恐る恐る段ボールのガムテープを剥がし段ボールの蓋を開くと、中には衣服を纏わぬ、女性の様な面立ちをした青年が詰め込まれていた。青年といってもどうやら二十歳くらいに窺える。静雄は中身が死体かと思っていたが、あまりにもその体は綺麗で、死体だとは思えなかった。青年の上には取り扱い説明書と電池のようなものが入れられていた。そこで静雄は漸く気付いた、これが人間ではないと。己の関心のなさなどに感謝をしながら取り扱い説明書と電池のような物を取出し青年の上へ掛けられていた透明な布を取り払うと、そこには超絶、と言っていい程の美形な顔を持ち合わせた青年の顔が出てきた。女にも似たような顔付きによく目立つ肌の白さがこの男にあっていた。ふと腕に見えた電池をいれる様な場所に気付きそこの蓋を開けるとやはり電池のような物が納まる場所であった

「これを、ここに、装着…だよな」

電池のような物を手に取りそこへ取り付け蓋を閉めるといきなり青年の瞳が見開かれた。静雄はあまりにもいきないの出来事に目を見開いた。目を薄らと開いた青年は眠たげな表情を浮かべながらゆっくりと起き上がり此方へ視線を向けた。ゆっくり開かれた口から発せられた声は、人間そのものであった

「…俺の、恋人…は、君?
俺の名前は、折原臨也って付けられてる
臨也って気軽に呼んでくれていいよ」

こうして俺の新たな生活が始まった



君の、1週間レンタル

(はじめまして、)
(お、おう、は、はじめまして)
(君の名前は?)
(俺の名前は――――、)




2010.06.06

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