きれいなあの子 | ナノ



晴天と呼べる雲一つ無い空、少し日の強い夏間近の時期、余裕振って着席10分前に家を出た俺はもう急ぎで自転車を扱ぎながら学校へ向っていた。自宅から学校まではゆっくり自転車を扱いで20分、急いで10分程度であった気がする

(や、やばい、遅刻する…!)

急いで自転車を扱くが間に合うか間に合わないかと問われれば間に合わないに近い気もしたが、そんな事はどうでもいいとばかりに自転車を扱ぎ進めた。急いだかいあってか、案の定学校についたのはチャイムの鳴る3分前であった。多少早足に下駄箱へ向かっていた刹那、頭上から聞きたくもない声が耳に入ってしまった
嫌々ながらも上を見上げると同じクラスで最も苦手なアイツが居た。アイツとは眉目秀麗という言葉を具現化したような人物と周りから言われる容姿をした折原臨也という名を持った俺と同い年のクラスメイトである
だが俺はアイツが好きではない、いやどちらかと言えば大嫌いに入るのかもしれない。人を小馬鹿にするような喋り方に動作、入学当初からあまり好きではなかった。頭上から笑顔で声を掛ける折原は余裕を気取るようにベランダから手を振っていた

「やあ、正臣くん。今日も遅刻ぎりぎりかな?」

やっぱりうざい。だがそんな言葉なんて無視をしチャイムが鳴るまでに教室へ俺は向かった。ぎりぎりチャイムの鳴る数秒前に慌て席へと座り鞄から荷物を出すと俺の真後ろの帝人が声を掛けてきた
帝人とは幼なじみであり、仲の良い存在だ

「正臣、正臣。今日もぎりぎり到着だったね?大丈夫?」
「え、あ、何が大丈夫って話だ?」

帝人は自身の机の上に置かれている教科書を指差し己へ焦るように問い掛けていた。時刻はチャイムが鳴った3分後、間に合ったという浮かれ気分に上昇したテンションを押さえながら、俺は鞄の中から一時間目の教科書を取り出した
そこでふと何かを忘れているような事を思い出すが今の俺には何を忘れたかなんて気にはならなかった。その様子に溜息を吐いた帝人へ視線を向けた刹那、帝人の左斜め後ろの折原がやけに不気味な笑顔を浮かべている

「何だよ、折原。言いたい事があるなら言えよ、今の俺は機嫌が良いから何言っても許してやるよ」

「だそうだよ、帝人くん」

まるで折原じゃなくて帝人が何か言いたいかのように帝人へ話を振る折原は今にも笑いだしそうに口元を押さえていた。ふと帝人へ視線を向けると気まずそうに視線を泳がせている様子が窺える
あの言いにくい言葉も毒舌ツッコミも何でも言ってしまう己の親友が言葉に迷いを持っているとは驚きであった。その瞬間大きな音を立てられ教室の扉が開いた、すると帝人は己へとある一冊の教科書を突き出してきたと思えば、まるでどん底へ突き落とす勢いの言葉を吐き出した

「ごめん、正臣…!こ、これ、間違って持って帰っちゃったみたいで、昨日僕に持って帰ってないかって電話してくれた時気付かなくてさ…しゅ、宿題で出されてたのに本当にごめん!」

ある意味絶望的な朝を俺は迎えた





「あー、畜生、帝人の野郎、昨日すげえ慌てて今日は先生に怒られる気満々で来た俺の…ってそうじゃなくて、」

一時間目、二時間目と平和ながら四時間の授業を終えた俺は宿題を忘れた事を三時間目に教師に怒られながらその休み時間に帝人の頭を小突いていた。正直教師へ怒られた事はどうでも良いが、やっぱり帝人が教科書を持って帰っていた事が気にしている
あの時もっとちゃんと探すよう仕向けていれば己が宿題を忘れずにすんでいたのかと思うと眉間に皺が寄るしまつであった
昼食を終え教室へ戻ると机の上に筆箱で飛ばぬよう押さえられた一枚の手紙が置かれていた。送り主は"折原臨也"だった。人を馬鹿にするような事でも書いてあるのかと思ったがやはり中が気になるもので封筒を開け中の紙を見るとそこには放課後、準備室に来て、とただそれだけが書いてあった
最初はあの折原だから何を言うかわからないと行かない予定であったが、気が付くと予定より10分も早く放課後の誰も居ない準備室に来ていた。一体これから折原はここに来て何をするのかという事が凄く気になるという気持ちもあるし、俺に何の用があるのかというのもまた一理ある
そんな事を考えていた刹那、準備室の扉が開いた。そこには不安を曇らせる表情の折原が居て、俺を見ると安堵の笑みを浮かべる折原が居た。俺の中で何かが変わるのを感じた、俺達と同じ来良の制服を多少着崩すように纏い、同い年とは思えぬ顔立ちをした目の前の男
前々から折原を見ると何故か好きにはなれなかった。好きにはなれなかったし、何故だか俺自体折原に好かれている気がしなかった。何時も他人と俺を見る目が違う、赤い瞳、色白の肌、薄い唇、か細い体

「俺を呼び出して何の用だよ。うざいから死ね、または殺すとでも言いに来たのかよ。呼び出すくらいなんだからそれなりの理由はあるよな?」

ついつい折原を前にすると強い口調になってしまうのは癖であった。折原は準備室の扉を閉め一歩一歩と俺に歩み寄ると小さな息を吐きだし俯けていた顔を上げ此方へ向けて表情は、下がった眉に弱々しい目付き、震える唇であった

「正臣くん、誕生日だったよね?」

そう、折原は俺が好きだと今更分かった。ホモとかゲイとかそういう部類は気持ち悪いとしか思わなかった。いや、今でも思っている
さて本題と戻そうか、折原の口から発せられた言葉に俺は忘れていたことを漸く思い出した。今日は己の誕生日である事と、きっと帝人は気付いていないふりをしてビックサプライズとかで祝ってくれるのだろうと信じている

「今まで、嫌な事ばっかりしてごめんね…お、俺、正臣くんが好きだったから、素直になれなくて
男に好きだなんて言われても気持ち悪いだけだよね…!ご、ごめん、でも、俺、正臣くんが好き。だから誕生日おめでとうって、言いたかったんだ」

俺は折原臨也が好きなのだろうか、それともその場の空気に流されやすいだけなのだろうか、ブレザーの裾を握り締めていた折原は下を俯いていた。何時もとは違う弱々しい声、これが所謂ギャップ萌えなのだろうか、全てが非日常へと巻き込まれていく
そして何時の間にか俺は折原にキスをしていた。唇を貪る様に浅く何度も何度もリップ音を立て口付けを施す。桃色へと紅潮する折原の頬が妙に愛おしく感じた

「好きとかよく、わかんないけど、キスしたかったからキスした
なあ、今から折原じゃなくて臨也って呼んで良い」

そうすると折原は大きく頷き柔らかい笑みを浮かべていた





(正臣くんは好きじゃない子にもキスするの?)
(いや、しないけど)
(じゃあ俺の事は好きなんだ)
(え、あ、そういう訳じゃな…)
(俺、今凄く幸せ者だね)



2010.07.01

(紀田誕企画)


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