きかいしずお | ナノ


※静雄がアンドロイドです
更に臨也が達磨ですのでご注意下さい(達磨の意味がわからない方は見ないか、達磨の意味を調べ理解した上でお読み下さい)





平和島静雄が機械、属に言うアンドロイドだと気付いたのはつい最近だった。と言っても、気付く前からアンドロイドなどの類に入るだろうと想像はしていた為然程、いや全く驚きはしなかった。寧ろやっぱり、と思った程である。それからは殺そうと思うのが馬鹿らしくなった。だけど平和島静雄が殺したい程嫌いなのは相変わらずであり、機械として壊れそうな事を幾度か試すが結局は何も変わらなかった
それからだった、俺と彼が何時ものように池袋で鬼ごっこをしていたら、俺は、己の何倍もある大きなトレーラーに引かれた。否、引かれた事は全くわからなかった、気付けば病院に居た。起きた時は痛みや体に異変が無く思わずほっとしてしまった、トレーラーに引かれただけで体の一部に損傷が起きては情報屋の仕事も出来なくなってしまうからだ。そして、己が横になるベットの脇には俯いた姿でパイプ椅子に座る彼が居た

「何してるの」

彼は俯いた儘話し掛けても反応を見せなかった、フリーズでもしてるのかと思い叩いてやろうと腕を動かそうとし、漸く気付いた。己には肩から下が無かった、物を持つ、物を握る、物を掴む手が無かった。勿論片方だけではない、両腕が己から消えていた。恐怖に叫びだしそうになったその時だった、聞き慣れた声が己の耳に入った

「悪かった」
「何が、」
「悪かった」
「……ねえ、何が?」

何度も俯きながら悪かった、その一言のみを何度も壊れたように繰り返す彼に呆れ病室を出ていこうと足に重心を掛け起き上がろうとしたが、体が起き上がらない事に違和感を感じる。そして再び気付いた、足も切断されているではないか、と

「ねえ、シズちゃん、これ、どういう、事?」
「お前は車に引かれた、だけど生きてた。その代わり不慮の事故だったんだ、お前の両足と両腕はもう一生使えねえから、意志の判断で切断された」
「機械らしいもっともな返答だね、素晴らしいよ」

深い溜息が零れた、これでは仕事も愚か動く事も喧嘩をすることも一人で生きていくことも出来なくなってしまった。これも全て追い駆けてきた彼が悪いに違いない、なんていうのはただの現実逃避に過ぎない。だからいっそこの儘彼に殺された方がマシなのでは、そう思ったのはもう己に生きる価値が無いからだ

「機械のくせに馬鹿で頭悪くて、馬鹿力でうざくて、死ねとか黙れしか言えなくて…」
「悪かった」

予想外の返答だった、機械にインプットされてるのだから何時もみたいに"死ね、臨也"って近くの物で己を殺しに掛かるのかと思っていた、が、何もかもが期待外れだった。何かがぷつんと己の中から消えていく音がした


――…ぷつん
大切な物が消える音


「何で、何で、何で何時もみたいに死ねって、言ってこないの」
「…そうインプットされてるからだ」
「俺に足が無いから?俺に腕が無いから?俺が障害を持ってるから?」
「………、」

返事はない、また何かがぷつんと消える音が聞こえた。次第とぷつんという音が大きくなっていく気がした、それは気のせいなのか、はたまた実際に大きくなっているのか、己にはわからない。じわりじわりと目頭が熱くなっていく
悔しくて堪らない、あの馬鹿な機械に同情されているのが苛立たしかった、そしてもう俺を俺として見ていない事が切なかった

「そんなの…そんなの、俺の知ってるシズちゃんじゃない…!俺の知ってるシズちゃんは俺が怪我したって容赦なく殴ったり蹴ったり標識を投げたりしてきたんだ!こんな人間らしいシズちゃん俺は知らない…!誰だよ、こいつ、誰なんだよ!」
「…臨也、」

機械的に聞こえぬ温かみのある声、叫びを制止するようにして俺の名前を彼は呼んだ。荒くなった息、早くなる鼓動、再びぷつんとなる音、今までに感じたことのないものを同時に体験した。俺は一体今何を見ているのだろうか、思わず夢とまで思ってしまった
気付くと先程まで俯いていた彼が立ち上がっていた、だが未だ顔を上げる様子ではなかった。もし今己に両手があれば俯く彼の髪を掴んで上に向け暴言だって吐けただろうが、今の己にはその手がなかった

「何時までも俯いてないで顔上げてよ、気分悪い」

吐き捨てた言葉は半分本音、半分八つ当たりだった、自分の馬鹿らしさに自嘲してしまいそうな程である。すると素直にもゆっくり彼は俯けていた顔を上げた、彼の頬には水、といったら良いのだろうか、金色に輝く瞳から溢れるように零れ頬を伝う涙らしきものがあった

「泣いて、るの?」
「泣く?俺は機械だから、泣けねえよ」
「でも、泣いてるよ」

その瞳から零れる水滴を拭おうにも拭う為の手は無かった、ほら泣いているよ、と拭い彼を馬鹿にする為の手はもう己にはなかった。その悔しさにぐっと歯を噛み絞めるも何かが変わる訳ではなかった

「突っ立ってないで、何か言いたい事があるんでしょ?」
「臨也、」
「何?」
「俺はお前ともう喧嘩は出来ないのか?俺はお前と追い駆け合う事が出来ないのか?俺はこれから誰と喧嘩すれば良いんだ、俺はこれから誰を追い駆ければ良いんだ?なあ、俺の存在価値ってなんだ…?」

腕も足も無くなった俺より弱気な彼に正直驚いた、瞳から大粒の水滴を溢れさせ頬を伝わせながらゆっくりとそれが床へ落ちる、機械とは思えぬはっきりした意見に眉が寄る。まるでそれは彼の存在意志が己と喧嘩や追い駆け合いをするような様に感じられた
その切ない表情に妙なものを感じた、己に足と腕があれば今直ぐにでも彼を抱き締められたのに。また喧嘩して追い駆け合おうと言えたのに、と自分らしくない事を考えていた刹那、ゆっくりと彼の大きな両手が己へ近付けられる。ふと視線を彼の顔へと向けたと同時に四肢のない体が彼の大きな胸で抱き込まれるように抱き締められた

「いざや、」

人とは違い全く柔かみのない彼の体に抱き締められているというのにどうしてこんなにも小さく見えるのだろうかという程に弱々しく徐々に抱き締められる手に力がこめられていくのがわかった。多少抱き締める力が強く痛みが伝わる
そしてそこで漸く気付いた

「シズちゃん」



(温かな機械は心も)
(体もすごく温かかった。)
(だから最後に有難うとだけ伝える)
(俺の人生を終わらせてくれて有難う)




"×シズロイド補姦計画"に提出致しました


2010.08.04

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