※新羅が潔癖症です
かなりの悲恋でセルティが可哀相です
二人の関係などは原作通り変わりはありません
新羅→セルティの順に視点が変わります
ちなみに新羅の一人称が僕で固定されています








医者という職は知らぬ人の体に触れなくてはいけない、寧ろいけないと言うより当たり前なのである
医者と言っても自分の仕事は人には言えないような医療関係のものであり、所謂闇医者というものだ
だが己は医者らしからぬ症状を物心ついた頃から持っていた
何故今闇医者という職についているのだろうかと自分でも不思議である

その僕の症状は、潔癖症だ
小さな頃から他人には触れられず、誰かが触れた物が汚く見え、多くの人が使用しているトイレ、温泉、ホテル、レストランの食器などはもっての他である
勿論寿司やうどん、そばなど、素手で作られているものも口に出来なかった
だから手には普段から医療用のビニール手袋を纏わせ過ごしている

そんな僕には最愛の恋人、セルティという首無しの妖精が居る
僕はセルティが好きだからこそ、彼女を愛し彼女を愛でているが潔癖症の症状は変わり無く発症する
彼女はそんな僕を愛してくれていた
こんな、異常な人間の僕を愛してくれている

*

キッチンから水道水の流れる音が静寂の続く室内に響き渡っていた
かれこれ30分以上はこの音をソファーに座りながら私は聞いている
ただ何も出来ずに聞いている己が憎らしい程に情けなくて悲しく感じていた
思わず何も出来ないとわかっていても立ち上がってしまった、荒い息遣いをしながら懸命に手を洗う彼へ小刻みに震える足を踏み出し歩み寄る
踏み出した足でキッチンまで向かうと、彼はまるで汚らわしい物を見るような目で自らの手を見ていた
綺麗に洗われている手は、既に洗い過ぎて真っ赤になっている

｢――…ッ、落ち…ない！何で、汚い、汚い、っ…！｣

今の彼の姿は、普段の優しげでおっとりとしており愛おしい様子とは掛け離れ、まるで別人の様であった
見ているのが正直とても苦しい
今直ぐにでも抱き締めて、大丈夫だから、もう綺麗だから、気にしなくて大丈夫だからって宥めてやりたいと感じたがそれが逆効果だとわかっている
私にも気付かないで、幾度も手を洗う彼は誰かが止めないときっと倒れるまで手を洗い続けるだろうと思った
無意識に水道の捻りへと手が伸び、回していた
水が止まると彼は暫く硬直していた、まるで絶望感に浸されているような顔で濡れた手を眺めていた
漸く彼が此方へ向いたが、その顔は怒りと恐怖に満ちていた

｢っ、何で、なんで水を止めるんだ！まだ汚いじゃないか！！
こんな手じゃ君に触れる事なんて出来ないよ！こんな、こんな、汚らわしい手で君に触れたら、君が汚れちゃうよ…っ｣

新羅は力なくその場に崩れ落ちた
無言になったと思えば、まるで小さな子供の様に大声で泣き出し始めた
水で濡れた手が汚いと壁に握り締めた拳を打ち付けていた
汚いからいらないと何度も、何度も打ち付けている拳は先程から既に真っ赤であったのに更に赤くなり僅かに血が滲んでいる事が把握できた
私は無意識に新羅の体を抱き締めていた
汚い私の体では新羅が汚れてしまうとわかっていたが、抱き締めてあげないと、私が守ってあげないと、今にも壊れてしまいそうだったから

『大丈夫だから、新羅は汚くないよ』

僕は汚いんだ、汚れているんだ、セルティが腐っちゃうと叫ぶ新羅を更に抱き締めるとやっと言葉が止まった
新羅が私に寄り掛かっていた
ひっく、ひっくと涙を必死に堪えようとしながら拳を強く握り締める新羅が居た

『大丈夫だから、新羅は汚くないよ
汚いのは私だ、ごめんね、新羅』
きっと新羅はPDAの文字なんて見ていないだろうけど、新羅がこうなってしまったのはきっと私のせいなんだろうから謝らなくてはいけないと思った
唇を血が出る迄に噛み締め、握った拳は真っ赤にになり弱々しく震える姿は今にも壊れてしまいそうで、時折噛み締めていた唇からは僕は汚いよ、と告げられる言葉が零れた
真っ赤に晴れ上がった瞳はまるで兎みたいになっている

暫くすると新羅は落ち着いたのか私の胸の中で寝息を立てながら眠ってしまっていた
新羅が寝るまでどのくらいの時間が経ったのだろうか私にはわからなかった
だけど、新羅に触れている時間がとても幸せだったのは事実であるが、壊れそうになるまで泣いている新羅を見るのは苦痛であった

翌日、ゴミ箱に先日まで着ていた衣類が捨てられ、風呂場で泣き喚く彼が居たのはまた別の話し


触れない愛の形
(新羅、汚いのは私だよ)
(新羅は綺麗だから)
(新羅を汚くしているのは私だ)
(そんな私でも、新羅を愛しても良いか？)




2010.04.30


＊後書き
そのうち後日談やら、シズイザと潔癖症新羅を絡ませたりしたい
潔癖症ネタで今度こそ甘々な新セルを書きたい、とか思ってたり
ってか新羅とセルティの口調があんまりわからない＾p＾