赤色コントラスト


キャプテンである円堂と次の試合のことで話し合っていたせいで、風呂に入るのが遅くなって今に至る。
廊下を歩きながらドレッドを丁寧にタオルで挟み込んで乾かす。
いつもなら脱衣所で乾かすのだが、今日はもう遅い。それにマネージャー達は俺達が入った後の風呂掃除もこなしている。あまり長居をして迷惑を掛けるのも気が引けるからだ。
部屋の前まで来て、ふと部屋替えをしたことを思い出した。前のルームメイトは風丸だったが、今回のルームメイトは…

「よォ鬼道クン」

何でよりによってコイツなんだ、不動。
俺がドアノブに手を掛けたと同時に、コイツは逆方向から歩いて来た。
手にはコーラのペットボトルがあることから自動販売機にでも行ったのだろう。相変わらず不健康そうなものばかり好むんだな。

「何か用か」
「用って、今日からオレここの部屋なの。知ってた?」

ケタケタと人を馬鹿にするかのように特徴的な口が弧を描く。貼り付けたようなその笑い顔に違和感を感じながらも、俺は返事もせず部屋に入った。
別に嫌いな訳ではない。チームKとの試合以来は、少し打ち解けたのだ。
だが、不動の相手をするのは大変だ。これは推測だが、不動は人を不快にさせることに楽しみを見出している。だからいつも挑発的で、相手を不快にさせたらそれ以上干渉してこないのだ。

「オイオイ無視かよ。鬼道クン」「お前と話すことはない」
「あっ、髪降ろしてんじゃん」

アイツの不健康そうな色をした指が、俺の顔の横を通り過ぎて髪を触る。小さい声で「こうなってんだな」と呟く相手の顔は、さっきまでの嘲笑の色はなく、むしろ興味津々といった所だ。
そして俺は、不思議と自分の髪を触る手に不快感を覚えなかった。それどころか、胸の奥をぎゅっと握りしめられたような感覚を覚えた。気を紛らわせようと伸ばされた手に視線を動かす。自分が不動のことを気にしているという事実を、受け止めたくはなかったのだ。

あんなラフプレーばかりしているのに、何故不動の手は不健康そうでこんなにも細いのだろうか。
佐久間と並んでいる姿を目撃した時、(佐久間が色黒なのもあるが)不動の色の白さに不安を覚えてしまったのだ。

「なんだよ鬼道クン。オレをまじまじと見ちゃってさ」
「はっ、いや!なんでも、ない…」
「鬼道クンさ、実はオレのこと好きなんじゃねェか?嫌よ嫌よも好きのうちって言うだろ?」

また人を不快にさせる笑い顔で言う。心底面白いのだろう、笑いを堪えようとしているのがわかる。
目を見開いてそう告げる不動と目があって、俺はばつが悪くなって目を逸らした。

「だっ誰がお前なんか!」

動揺しているのか、予想以上に大きい声が出てしまった。廊下中に響き渡る自分の声を聞いて、はっと口を抑えた。
誰も廊下に居る様子はない。部屋にまで聞こえていないだろうか、と不安がよぎる。
目の前の不動は、俺の声の大きさに大きな目を真ん丸くしたが、また弧を描いた。

「なんだよ。図星ィ?」
「うるさいっ!」

図星、と言われて顔に熱が集まったのが分かった。俺が不動を好いている?冗談じゃない!…と思いたかったが、今までの自分でも考えられないような反応をしてしまってから何か変なのだ。
俺は不動のことが好きなのか?いや、よく分からない。
眉を潜めている顔を見て不動が満足げに笑ったと思ったら、俺に顔を近付けて来た。

「俺も好きだったりして…」
「!!」

驚いて顔を仰け反らせると、何事もなかったかのように、不動は部屋に入る。
一瞬見えた頬が赤くなっていたのは気のせいだろうか。





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あきおがすなお


2010.10.19
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