街へ出て夕立に降られ、あわててリーグに戻ったシキミを待っていたのはギーマだった。リーグの入り口にほど近い柱にもたれてレパルダスの顎下をくすぐっていた彼は、突然の雨に不満を漏らしながら衣服の裾をしぼるシキミを見留めるなり足早に近寄っていって、おかっぱの頭に抱えてきた大判のタオルを被せるのだった。


「バケツをひっくりかえしたような雨ってやつかな」
「さすがに道が川みたいになったりはしてませんでしたよ」
「あいにくわたしには細かい表現の違いはわからないね。そんなことより、まったくひどいざまじゃあないか、一雨きたって言うよりプールに飛び込んだみたいだぜ」
「ギーマくん、わたし、そんなことしてません」
「ああ、知ってるとも」


髪をタオルでおさえつけるようにして水気を拭いながら、ギーマはシキミの全身を見回した。絶えず裾からぽたぽたとしずくを垂らし、身体に張り付く黒い布地は重く、冷たく、体温を奪うだろう。まとわりつくべたついた感触は不快だ。その服、しぼるよりも着替えたほうが早いんじゃあないのかい。ついでにシャワーも浴びてくればいい。冷えきってしろくなった耳をてのひらで温めながらギーマは口を開いた。プールの次はバスタブですか、せわしない。あおざめた顔でシキミが笑う。


「今度は飛び込んだってかまわないぜ」
「わたしこどもじゃあないんです、ギーマくんがすればいい」
「風呂は狭い」
「では、海に」
「さむいよ」
「さむいでしょうね」


すっと細められたギーマの薄氷のような瞳はしかし、ひややかな色と裏腹にひとひらの温度も持ち合わせてはいなかった。シキミくん。呼ばれるが早いか強引に上向かされた顎に息苦しさを訴えるより先に、ギーマのくちべりが酷薄そのもののかたちでつりあがる。


「せっかくだから、心中でもしてみるかい」
「それもいいかもしれません、ギーマくんとなら」


こたえたくちびるは、ギーマを見つめ返すシキミの瞳は、ひどく冷えている。わかっている、それが実に悪趣味な冗談であることはわかっているのだ。それでも、嘘つきと声をあげて罵りながら彼のしろい頬を打つより、あるいは無言でほっそりした首を絞めるよりも、シキミの両手はギーマの腕に縋ることを選ぶのだ。ああ、まったく、ひとの気も知らないで!わたしがプルリルであったなら、いますぐにでもこの手足を絡めとって水底に連れて行ってくれようものを!


「わたしをおいていけないように、どうか手をつないでいてくださいね」


仕立てのいい上着の袖口をつかむシキミの手は水気を含んでふやけている。
好奇心。うつくしい彼が、見るに耐えないぶよぶよとした肉のかたまりになっていく過程を見たいと思った。





三文芝居


(こわいものみたさの一言で片付けるには醜悪な期待)



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