夏未と秋と
「秋さん」
夏未が何を言いにきたのか、そんなことわかっていた。秋はきゅっと拳を握りしめる。夏未に、気付かれないように。
「わたしね、円堂くんと」
「おめでとう、夏未さん」
わたしは笑えていただろうか。秋は夏未と別れてから数十分がたった今もその場から動けずにいた。精一杯の笑顔をたたえて、彼女に微笑んだはずだ。そんなの、本当は容易いことだと思っていた。だって今まで秋はそうやって夏未の恋路を応援してきたのだ。なのにどうしてだろう。彼女一人の恋であるうちは何の曇りもない、と言えば嘘にはなるが、偽りのない笑顔で彼女を励ませたというのに。こうしてそれが二人のものになってしまっただけでこうも違ってしまうのか。でも、それでも、彼女の恋が叶って嬉しいという気持ちに偽りはなかった。だって秋は今、こんなにも幸せだ。
「よかったね、夏未さん」
涙がこぼれた。ぽたりと、一粒だけだった。
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