Wall Graffiti
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その日彼が降り立ったのは、周囲が全て壁に囲まれた世界だった。彼は張り巡らされた壁を丹念に見て回る。顔写真がはってあり、その人物の学歴や趣味などが細かく記載されている。

彼は、一枚の壁に目がとまる。


それは、全く白紙の壁だった。そこには、何も書かれていない。

彼はつぶやいた。

「これが、おれに割り当てられた壁か。」

この世界は、一人一枚、実名制により壁が与えられていた。与えられた壁に、各自好きなことを書き込む。

彼は考えた。何を書き込もうか。単純に、エントリーシートのような書き方ではあまりにつまらない。そのような使い方を否定はしないけれども、もし必要であれば専用のアカウントを作るだろう。この場でそのような使い方はしたくない。なにかおもしろい使い方がしたい。とにかく、これが壁なのだとしたら、私はこの壁をらくがきで埋めよう。何か日頃の退屈や閉塞感がふきとぶようなことを書こう。履歴書ならいくらでも書けばいい。友達コレクションなら電話帳で十分だ。何か創造的なことをしよう。私に芸術的な絵は書けない。私は、この壁に、何か文章を書こう。壁のらくがきがスプレーの絵画だと誰が決めた。創造的な文章だっていいじゃないか。


彼ははしごを立て掛け、壁に書き始めた。




episode1. 壁の落書き




(あとがき)Facebookで書き始めた書き下ろし作品です。見渡す限り壁に囲まれた世界で、彼は何を思うのか。ひとまず短編と言う形で、少しづつ書いて行こうと思います。長く続いたらいいですが、終わり方が全く見えていません。


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