の箱庭
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舌を切り落として豚を見下した彼女は、この世界に豚が溢れていることに気付いた。体毛ばかり醜くどちらかと言えばイノシシかもしれないが、牙がない点でそれらは豚だった。だから彼女はそれらを見下して、蔑称として豚と呼んだ。

豚は朝早く起きて満員電車で通勤する。なぜならそれらが豚の生活スタイルだからだ。豚はぎゅうぎゅう詰めの箱に詰められながら、どこかへ出勤する。

豚は会社へ行くと黙々と仕事をする。なぜなら彼らは真面目だからだ。家畜には快適な空調設備が待っている。時間感覚が麻痺するように、みな同じように行動する。誰も疑問を持たない。それが当たり前だからだ。

豚には快適な食事も待っている。それらは安くて美味しくて油と甘さに包まれ、彼らは搾り取られるために太り続ける。そして何かを生み出し続ける。それが何の役に立っているのか、彼らは考えたことがない。なぜなら、それが彼らにとって生きることだからだ。

セイラは電車の中で痴漢にあった。端的に言うと尻を掴まれた。

「ふざけんな豚」

彼女は後ろに視線をやる。豚は息を荒くして、彼女に身体を押し付けてくる。

「気持ちわるいんだよ豚」

彼女は豚の足を踏みつけようと思ったが、脚が動かずに身動きが取れない。

電車が揺れる。窓の外が暗くなる。豚の手が下着の中に伸びてくる。

誰か助けてくれるまともな奴はいないのかと彼女は周りを見渡す。みなスマートフォンの画面に向かって親指を動かしている。イヤホンを差していて周囲の音は聞こえない。そもそも周りを見ようともしていない。

彼女はため息を付き、肘打ちを豚のみぞおちに入れようかと思ったが、どうせ身動きはとれないだろう。

彼女は仕方なく、護身用に持っていたナイフを取り出した。

彼女はくるりと身体を回転させて、豚の真正面を見る。豚は驚き、こちらを見る。

「わるいな豚。貴様の存在が害悪なんだ」

彼女は豚の中に手を入れ、舌を人差し指と親指で掴んだあと、ナイフでそれを切り取った。

「うわああああああああぁぁああぁあ」

豚は悲鳴を上げ、周囲に血を撒き散らして暴れる。醜い最後だ。

「生きるってことは、何かを殺すってことなんだよ」

彼女は騒然となる車内を後にして、学校へ向かう。豚の世界は、彼女にとってまだ関係のない世界だ。見たくもない、そんな世界だ。




(あとがき)

このお題で豚を連想したの、自分でも不思議でならない。

お題:栄光のぺろぺろ




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