つねのうどん屋。
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山を登っていると一杯のうどん屋があった。僕は富士山を登っていて、急に霧に包まれ、気付けばここにいた。

中に入ると狐がいた。いや、野生の狐がたまたま紛れ込んでいたという訳ではない。それならそれで店側が追い出せばいいという話だし、そもそも狐が人に近付くのかという疑問が残るけれども、もしや餌付けなどされてそこに飼われているかもしれず、はたまたこれから煮て焼いてきつねうどんにという寸法かもしれない。

そういう訳ではなく、そこにいたのは確かに狐で、しかもその狐は店のエプロン(前掛け)をしており、店の切り盛りをしているようなのだ。

店の中にはちらほら客がおり、彼らは人の姿をしていて、黙ってうどんを食べている。油揚げが入っており、どうやらきつねうどんのようだ。

「いらっしゃい」

店の店主らしき狐がこちらに来て言う。

「ここはうどん屋ですか?」

私は彼に(狐に)訪ねてみる。

「ええ、見ての通り、うどん屋ですよ」

狐はにっこりと笑うと、中へ手招きする。

私は招かれたカウンターの席へ腰を掛ける。

「ここを始めて長いんですか?」

私は店内をざっくりと眺めながら店主に尋ねる。

「いえ、3年ほどですよ。家内と息子と一緒にやっております」

確かに厨房には女狐らしき者が包丁でネギを切っている。トントントン。

隣には子供の狐が飛んだり跳ねたり歌ったりしている。

「いらっしゃい!」

小さな狐がこちらに来て言う。

「ご注文は!」

私はカウンターの上を眺める。メニュー欄にはきつねうどんしかない。

「ではきつねうどんで」

「了解!」





「お待ちどう!」

小さな狐がうどんを運ぶ。

私はうどんを啜る。ずるずる。ずるずる。

なんと上手い。こんな上手いうどんは食べたことがない。私は勢いよくうどんを食べ始める。

「いかがですか?」

女狐がいつの間にか私の隣に来て言う。

「大変美味しいです」

「それはよかった。あの世へ行きたくなる味でしょう」

私は油揚げに手を付けようとする。

女狐が笑ったような気がした。

油揚げを食べた後、私は視界が歪み、意識が遠のき、記憶が飛んだ。





「美味しそうだね」

「ああ、美味しそうだ」

「ええ、美味しいそうね」

ばりばりばり。

がりがりがり。

私は視界を音のする方へ向ける。

客の頭から魂が抜け出ており、三匹の狐が、その魂を貪り喰っているのだ。

「美味いね」

「ああ、美味いな」

「ええ、美味いわ」

ぐしゃぐしゃ。

ぼりぼり。

見ると私は自らの肉体から少しだけ抜け出ており、肉体から白いかぶのように、魂がふわりと浮いているのだ。

私は咄嗟に飛び起き、肉体から魂が抜け出たまま逃げようとする。

しかし身体は上手く動かず倒れる。

バタン。

近くの椅子が倒れる。

ギロッ。

三匹の狐が、こちらを見ている。

包丁を持った女狐が私に近付く。

やめろ。

やめてくれ。

包丁のスッという音と共に、私の視界は消えた。





日夜迷い込む不思議なきつねのうどん屋へようこそ。ここは迷える仔羊たちの墓場。きつねうどんを食べて、あなたもあの世へいかがかな。

店主は笑い、店を閉じる。



(あとがき)
ホラー風味。もしくは昔話風味。

お題:最後のうどん



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