ッドホンと箏と僕の彼女。
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お笑い芸人を目指して早数年。僕のライブには閑古鳥が鳴く様なお客さんの反応にあわや死神に取り付かれたと噂が立つ始末。がんばってはいる。がんばってはいるが、いささか見るに耐えない。

僕がお笑い芸人を目指したのは小学生の頃。TVでバラエティ番組を見ながら、夕飯を食べている時。これなら友達を作れるんじゃないかと考えたのが、一発ギャグ。

僕はコミ障で人との目線もあまり合わせられなかったが、試しに学校でやってみると、普段は静かな僕が一発ギャグをするというギャップの為か、笑いが起きた。

小さな笑いだったが、僕は嬉しくなって、その時から少しずつ、ネタをノートに書き溜めるようになった。

ネタ帳というものがある。これは創作全般に使われる思いついたことを書き留めておく神の束のこと、おっと髪の束のこと、おっと紙の毛のことだが、なんのこっちゃ。

えー、とにかくネタが記してあるノートがあって、僕のノートには色々書いてあるわけです。

一発ギャグに関するポイントはまず音から考えること、何か短めの音を思い浮かべて、例えば「PON!」とか、何でもいいんですけど、音で相手をつかむことをイメージします。

音が浮かんだら次は動作で、顔芸、動き芸、何でもいいんですが、その音に動きをつけます。例えばさっきのPON!に、「歪んだ顔」とか、「驚いた腕と脚の動き」とかを付け加えます。

ここまで来たら、実演。近くの、例えば彼女とかに、見てもらいます。

僕は「PON!」という音を発し「歪んだ顔」をして「驚いた腕と脚の動き」をした。

彼女はにっと笑ってくれた。





僕の彼女の話をしようかな。

僕の彼女はお笑いライブの帰りに出待ちをしてくれてた女の子で、どうやら僕の眼鏡と「のどぼとけ」に惚れたらしく、彼女はいかにのどぼとけが神聖で熱いものかを熱心に語ってくれた。僕には意味が分からなかった。

彼女はいつもヘッドホンをしていて、日本のロックをこよなく愛している。特に好きなバンドはマキシマム・ザ・ホルモンで、普段はにこにこしているのに、カラオケの時はデスボイスから女声からかっこいい声まで完璧に歌いこなす。強者である。

彼女はしばらく長い髪をしていたけれど、僕に会った時にはボブカットになっていて、誰かに憧れて最近はこれにしていると語っていた。しのだまりこだったかもしれないし、軽音楽部の先輩だったかもしれない。

大学時代になって彼女は箏サークル「マンドリン」に入る。マンドリンなのか箏なのかはっきりしてくれと思うが、それが受けてじわじわ入部者もいるらしい。

そんな大学一年生の秋、彼女はとあるお笑いライブの会場で、僕と出会う。





彼女と出会った時、まず僕が何歳で、何をしていて、どのように生きていたのかをこれから語りたいところだけれど、いささか時間が無いので、最後に彼女が好きだと言ってくれる、僕と彼女の初めての会合での、マンネリの一発ギャグで終わりたいと思う。

「PON!」




(あとがき)

まさかお笑い芸人について書く日が来るとは思わなかった。

お題:マンネリなギャグ



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