お題:音


音が鳴っていたのです。
鈴虫の声でした。
いや、蝉の声かもしれません。
そもそも音は鳴っていたのでしょうか。
それは誰にも分かりません。
彼女は誘われるように、その村へ入っていきました。



片目のない人でした。銃弾を受けたのだそうです。大きな音が、今でも頭にこびり付いて離れないのだと。悪魔のようでした。その音は、夢に出てくるのです。

彼はコーヒーを見つめながら、しばらくぼおっとすると、笑いました。

「だけれど、自業自得なのさ」

「なぜですか」

「戦おうとしたのは、僕の意志だもの」



女の子は右腕がありませんでした。

「お母さんがね、私の腕を切り落としたの」

少女は笑いました。

「どうして?」

「子どもには、右腕はいらないんだって」

母親が背後に立っていました。

「帰れ」

彼女の右腕には、ノコギリがありました。



村長には首がありませんでした。横には刀を持った奥さんがいて、無言のまま、立っていました。こちらをずっと見つめています。

「なぜですか」

「けだもの」



音の方に耳を済ますと、実はそれは虫の声ではなく、彼女の悲鳴だったのです。
彼女は自分自身の悲鳴を、自分の声を自覚することが出来ませんでした。

病棟の中で、彼女の声は、いつまでも響いていました。




(あとがき)
響いていたのは、声でした。

お題提供:長月紗那さん @sana_pastelli




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