輪声
音が鳴っていたのです。
鈴虫の声でした。
いや、蝉の声かもしれません。
そもそも音は鳴っていたのでしょうか。
それは誰にも分かりません。
彼女は誘われるように、その村へ入っていきました。
○
片目のない人でした。銃弾を受けたのだそうです。大きな音が、今でも頭にこびり付いて離れないのだと。悪魔のようでした。その音は、夢に出てくるのです。
彼はコーヒーを見つめながら、しばらくぼおっとすると、笑いました。
「だけれど、自業自得なのさ」
「なぜですか」
「戦おうとしたのは、僕の意志だもの」
○
女の子は右腕がありませんでした。
「お母さんがね、私の腕を切り落としたの」
少女は笑いました。
「どうして?」
「子どもには、右腕はいらないんだって」
母親が背後に立っていました。
「帰れ」
彼女の右腕には、ノコギリがありました。
○
村長には首がありませんでした。横には刀を持った奥さんがいて、無言のまま、立っていました。こちらをずっと見つめています。
「なぜですか」
「けだもの」
○
音の方に耳を済ますと、実はそれは虫の声ではなく、彼女の悲鳴だったのです。
彼女は自分自身の悲鳴を、自分の声を自覚することが出来ませんでした。
病棟の中で、彼女の声は、いつまでも響いていました。
(あとがき)
響いていたのは、声でした。
お題提供:長月紗那さん @sana_pastelli