世界はチェス盤で出来ている
チェス。
僕の趣味はチェスである。
盤上に並べられた駒は美しい。
あまり強くはないけれど、その美しい駒を眺めているだけでワクワクする。
僕は犬を飼っている。柴犬である。
たまに一緒に散歩する。母さんが散歩するときもある。
僕はジョニー・デップと名付けられたその柴犬と散歩しながら、歩道に並べられたマス目を想像する。
固い盤に並ぶ架空の駒たち。それらを僕は頭の中で動かす。
「あぶないっ!」
たまにおばさんに引かれそうになる。
そして僕は現実に戻る。
「この世界はチェス盤で出来ている」
○
私の夢はいつも男の子と出会うところから始まる。
その子は等身大のチェスの駒を動かして、悪い魔物を倒すのだ。
私はその横で、何も出来ないけれど、彼を精いっぱい応援している。
私の願いが叶うだろうか。
「ヒーローが最後には勝つんだ」
○
学校から帰ってきて見たテレビには、東京タワーが映っている。
燃えている。
てっぺんに何かいる。巻きついている。いや、しがみついているのか。とにかく、果てしなくでかい。東京タワーが乗り物に見える。
猿みたいに毛が生えている。でも角みたいな触角が三本ある。触角の先に丸が付いている。目が一つしかない。口が裂けている。
なんだあれ。映画か?
「現実は簡単に想像を超える」
○
その日私は東京タワーの下にいた。なぜって、私はこうして東京タワーを眺めるのが好きだからだ。夕陽に照らされた東京タワーは大変綺麗だ。
だけど今日はいつもと違っていた。何が違うって、てっぺんに何かいる。大きな一つ目が何かを探している。
私は大きな一つ目と目が合う。
「絶望はすぐそこまで迫っている」
○
「大きな怪物が東京タワーのてっぺんを占拠しています」
「お、なんだ?怪物が下に降り始めたぞ?」
「怪物が手を伸ばした。お、民間人が捕まった!大変だ!」
○
僕の前に妖精がいるんだが、これはたぶん妖精じゃない。まず妖精はこんな平面じゃないし、こんなクレヨンみたいな輪郭じゃない。
腕にアクセサリーをぶら下げている。重力はどうなっているんだろう。
緑色のクリスタル。綺麗な色だ。いちにさんしごろくなな。八面体だ。
「誰かの悲鳴が聞こえたような気がした」
○
私は咄嗟に胸からクリスタルを出す。
「お願い、助けて」
すると飛び出す私の脳内。クレヨンの妖精。
絵が下手なのは本当に勘弁してほしい。
でもそんなこと言ってる場合じゃない。
「これを夢の男の子まで運んで!」
平面妖精が飛び立つ。
でも本当にいるのだろうか。
「ヒーローが世界を救うんだから」
○
まず最初に出てきたのはポーンだった。こればっかりはしょうがない。だって僕が最初に浮かぶのはいつだってチェスの駒だからだ。
「イエス、マイマスター!!」
テンションが高かった。
「ごようぼうは!!」
「え、あ、うん、ちょっと待って」
とりあえず一呼吸欲しい。
「ねえ、本当にこんな感じでいいの?」
「大丈夫です。全てはあなたの望むままに」
緑色のクリスタルが話す。
望みといわれてもな。
「世界はヒーローを望んでいますよ?」
うん。
「僕は戦えないかもしれないけれど」
カッコいいナイトを、創造する。
「オレが全て斬り殺してやる…」
○
私は胃の中にいる。はずだ。
この魔物はどうやら異次元らしい。体内の構造が。
私はなぜか川辺にいる。
これが彼岸というやつか。ついに渡ってしまったのだろうか。
「おいおいこらこら、誰に許可取ってこんなとこに座ってんだ?」
○
過激すぎただろうか。まあナイトがカッコいいに越したことはない。
「獲物はどこだ…」
ヤバイ。あれは人殺しの目だ。見たことないけど、あれは駄目なほうのやつだ。
「イエス、マイマスター!!」
「とりあえず東京タワーに行きます。歩いてすぐなんで」
「前途多難だなんて、言い出したらキリがない」
○
うさぎさんだった。
「ああ?なめてんじゃねえぞこらなんだそのめはああ?うさぎだとおもってばかにすんじゃねえよおれはせっくすましんがんだぞこら」
言ってる意味が分からなかったけれど、なんだが親切そうだった。なんとなく。
「ああ?ついてくんじゃねえよなんだよこらはいごによるんじゃねえ!どらくえか!おれのはいごにたったらしぬぞこら!」
てくてく。しばらく後ろを取って遊んでいたら、うさぎさんは黙ってしまった。
「…」
「…?」
「はいごとるなよ…」
「…コクリ」
てくてく。
「…グスン」
うさぎさんが泣いちゃったので、家までいってなぐさめることにした。
「大丈夫だよ?こわくないよ?」
○
馬鹿でかい魔物は僕と目が合い、そして笑った。
「おれを倒したければ、各地に散らばる五体の魔物を倒せ」
「黙れ」
ズサン!!
魔物の腕が飛ぶ。
「無駄だ。おれはいくらでも再生する」
そう言い残して魔物は、東京タワーのてっぺんで巨大なクリスタルになった。クリスタルは下まで伸びて、東京タワーは水色の結晶になった。
「絶望は限りなく幻想に近い」
○
うさぎさんは外弁慶らしい。
「まあ温かいミートパイでも食えよ」
ミートパイって何だろう。どう見てもグラタンにしか見えない。
「さっきはわるかったな」
暖炉の日が温かい。
私は眠くなってきた。
「ベッド借りるね」
私は布団に潜る。
「おいおい良いのかい?おれは夜は狼…」
私はいつの間にか記憶を失った。
「夢と幻想は区別が付かない」
○
一体目は北らしい。火の魔物だとか。
「もう君が倒せば良いんじゃ?」
「私は意思を反映するだけです」
僕はクリスタルを胸にかけている。
「イエス!マイマスター!!」
そろそろ目的地だ。
魔物は各地のパワースポット、およそ霊験あらたかな神社にいるらしい。
鳥居をくぐる。
鮮やかな火の鳥がいた。
周囲の熱はやけに静かで、本当に燃えているのだろうか。
いつもうるさいポーンが黙ってしまった。
「……斬る」
ズサン!!
火の鳥の首が飛ぶ。
すると斬られた身体は消え、頭から新たな身体が生えてきた。
「なに…」
ナイトの剣が止まる。
「創造はピンチを乗り越える」
○
目が覚めるとうさぎさんが私の服を脱がしていたので、一発殴っておいた。
「ちがう、きせていたんだ」
どうやら遅かったらしい。
「…なにしたの」
「ええ、まあ胸など揉みました」
一発殴っておいた。
「…ほかには」
「いえ、なにも」
「ほかには」
「太ももなどをペロペロしました」
目を突き刺しておいた。
「ぎゃあああああああ!!」
「その日東京タワーに声が響く」
○
「いでよクイーン!!」
カッコよく召喚シーンを演じてみた。
こういうのは演出が大事だ。
「全て凍れ」
周囲の大地が一瞬にして固まる。
「まずは足からだ」
ズサン!!
ぼとり。
「とり肉にして食ってくれる」
片足を失った火の鳥は空へ羽ばたく。
「お前は一生地を這うんだよ」
翼が凍る。
ズサン!!
ぼとり。
片翼を失った火の鳥は仰向けに倒れる。
「お前には倒れる権利すらないんだ」
頭が凍る。
ズサン!!
ぼとり。
「もう二度と私を呼ぶんじゃないよ」
クイーンは片足と共に消えた。
とり肉にして食うつもりだ。
「強敵は常に身近にいる」
○
片目を失ったうさぎさんに眼帯をはめる。
「なかなかだわ」
「クールだろ?」
胸を揉まれたので腹にパンチした。
「さて今日は人参を取りに行こう」
畑にはたくさんの人参が埋まっている。
すると向こうからくまさんがきた。
「ヘイ!踊ろうぜ!」
くまさんはヘッドホンをしていた。
白くまだった。
「ヘイ!ヘイ!」
腰つきがいやらしい。
くねくねしている。
なんだかむかついたので足払いのあと首をしめておいた。肘のところで。
「ヘッドロック!ソークール!」
○
二体目は東にいた。
それはそれは大きなゴーレムだった。
四メートルは優に超える。
目からビームを出したので華麗によける。
「いでよ!ビショップ!」
巨乳の女の子だった。
「ちょっとまだ着替え中!」
そういうと彼女は黒いローブを着た。
杖を取り出す。
「ソフトバン!」
ゴーレムがふにゃりとした。
ズサン!!
腕がぷるぷるとはじけ飛んだ。
「バーニン!」
剣が燃える。
ザザン!
燃えるスライムのゴーレムは浄化して消えた。
「また呼んでね?」
彼女は頬にキスをして消えた。
「夢と現実の混同は大人の特権」
○
踊る白クマは酒が好物らしいので、酒が湧き出るという泉に来た。
「ヘイ!ノンダクレ!」
ムカついたので関節を固めた。
「なんだこらおいこら」
うさぎさんは蝶々と遊んでいた。
「ああ、世の中せちがれえなあ」
泉からお酒の精が現れた。
飲んだくれのお姉さんだった。
「あん?胸ぐらいいくらでも揉ませてやるよ」
うさぎさんが胸にしがみついている。
白クマは腰を振って踊っている。
「あんたも飲みな」
「…コクリ」
「飲まなきゃやってられないよ」
(あとがき)