キツネビ - 狐火 -
1
暗闇の中で光る明かりを追っていると、川沿いに出た。橋がある。柳 (やなぎ) が生えて、如何 (いか) にも何か出そうだ。
私は目を凝らす。ゆらゆらと揺れている。影は見えるが、姿は分からない。
影はまた進んでいく。私は後を追う。風が生暖かい。夏の夜。江戸の町並み。
歩いていると、空き地に出た。最近火事で燃えた場所だ。影は道を曲がり、奥に消えていく。私は壁に隠れて先を覗く。
狐だ。尻尾が生えている。狐が明かりを持って、夜道を歩いていたのだ。
数匹いる。明かりを持ち寄り、何か話している。
「最近はどうですか?」
「ええ、ぼちぼちですよ」
「よく売れてますか?」
「そうですね」
世間話だろうか。
なぜ私はこんなことをしているのだろう。
2
蚊が飛んでいた。眠れなくて外に出る。遠くの方で、明かりがゆらゆらと揺れている。こんな夜中に誰だろう。
私は後を追ってみる。
そうして今にいたるわけだが。
そういえば最近は辻斬りが出るらしい。こんな所でうかうかしていられない。
それにしても。
狐に化かされるとはよくいったものだが、まさか本当にいるとは。喋る狐が。あれがいわゆる妖狐か。どうやら人間界に潜んでいるらしい。
3
帰り道に悲鳴が聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだろう。
4
明くる朝。死体があった。狐の死体。空き地の近くで。刀傷がある。どうやら辻斬りに殺されたらしい。きっと人間に間違えられたのだろうな。かわいそうに。
見た目はただの狐にしか見えなかった。人の洋服を着ていたから、誰かが不審に思ったかもしれない。いたずらで済ますだろうか。
夜。眠れなくて布団から起きる。夜風に当たっていると明かりがゆらゆらと揺れている。狐だろうか。また集会だろうな。辻斬りに殺された狐がいたが、彼らは事情を知っているだろうか。
5
夢を見た。狐が斬り殺される夢。いつの間にか私は狐になり、斬られる感覚がありありと残っている。
汗をかいて目が覚める。水を飲む。
私の家は代々、明かり用の油を打っている。
家の中は油の臭いが染み着いている。
6
鬼火。
人魂ともいう。
ゆらゆらとした火が空中に浮いている。
まれに油屋の仕業だろうと言われたりもするが、実際に子どもの頃はそういったいたずらをしたりもした。
行列を作っている。
キツネの明かりが。
並ぶ。並ぶ。
黄色の群れ。
刀。血飛沫。浮かび上がる鬼火。
キツネの悲鳴。
私はここで気付く。
斬っているのは自分自身だった。
手には刀を握っている。
夢で見たのは、キツネたちの悲鳴だったのか。
私は刀を握って立ち尽くす。
雨が降ってきた。
濡れる。
燃え上がる鬼火。
7
私は右手を切り落とした。
夜な夜な私の分身が暴れ出さないように。
(あとがき)
お題:ともしび