鬼火ランタン -Oorg lantern -
Prologue
暗闇の中で明かりが光る。ランタンの中で動く明かりが不気味に影を照らしている。虫のような彼らが言う。
「邪鬼(じゃき)に気をつけろよ」
【鬼火(おにび)】
日本各地に伝わる火の玉。伝承では人間や動物から生じた霊、または人間の怨念が火となって現れた姿だと言われている。 ーー Wikipedia
虫のような彼らは言う。
「これは鬼火(おにび)ってんだ」
ランタンの中にある小さな明かり。うっすらと緑色に光っている。ときどき青になったり赤になったり。綺麗な色だ。
ぞろぞろと歩く彼ら。触角が頭の上で揺れている。僕は彼らの後をついていく。
「あなたたちは蟻(あり)なんですか?」
僕はおそるおそるたずねる。
彼らはしばし沈黙した後、ふり向いて僕に言う。
「お前らは人間に向かって『類人猿ですか』ってたずねるのか?」
僕は言葉を失う。人間はチンパンジーと1.5%しか遺伝子が変わらないけれども、僕らは人に向かってサルですかとはたずねない。
「オレたちはもう蟻(あり)じゃねえんだ」
第11話 鬼火と蟻(あり)の行列
長い葬儀の列。
ランタンの明かりがどこまでも続いている。
「今日も一人食われたんだ」
蟻人(ありびと)の葬儀は蟻塚(ありづか)を作り、ロウソクを並べて鬼火(おにび)を灯す。蟻塚(ありづか)の周囲にはロウソクが並ぶ。彼らはそれらに一人ずつ、ランタンで明かりを灯していく。
「今日も…?」
「そうだ…王様がな…」
彼らの王様が最近様子がおかしいのだという。
「王様は邪鬼(じゃき)に取り憑かれてるんだ」
「邪鬼(じゃき)…」
「ああ、お前も気をつけろよ」
鬼火(おにび)の明かりが蟻塚(ありづか)を照らす。彼らにとっての送り火だ。
日本的な家が並んでいる。彼がランタンを玄関の脇にかける。
「これが風習なんだ」
ランタンをかけた家に、死者の鬼火おにび)が訪ねてくる。最後のあいさつをしにくるのだ。
「鬼火(おにび)は死者の魂なんですか?」
彼はこちらを向いて笑う。
「まあ、エネルギーみたいなもんだ」
鬼火(おにび)は生命エネルギーみたいなもので、自然界から化石燃料のように湧き出ることもあれば、死者の身体から湧き出たり、また怨念のようにその場に残ることもあるという。
「天然ものは王様がすべて管理してるから、オレらはときどき邪鬼(じゃき)を狩って、その鬼火(おにび)をランタンに貯めて生活してるんだ」
つまりこの世界では、鬼火(おにび)は石油のような生活資源らしい。
「あの、邪鬼(じゃき)というのは…」
僕は彼にたずねる。
「そうだなあ…。まあ…。怨念で汚れた鬼火(おにび)は、意思を持ち始めるんだ」
彼の声のトーンが少し下がる。
「そうすると、その邪鬼(じゃき)が誰かに取り憑いたりするんだ」
鬼火のエネルギーが怨念で汚れると、邪鬼(じゃき)になってしまうらしい。
「普通の蟻人(ありびと)の鬼火はどうなるんですか?」
「まあ蟻人(ありびと)に限らないが、一般人の鬼火は採取禁止だから、普通はそのまま成仏するんだ。まあ自然消滅だな」
彼が少しうつむく。
「ただ…最近はな…」
「最近は…?」
「オレたちの国も資源不足でな。王様が人民を殺し始めたんだ」
彼の声が震える。
「それは…」
「ああ、鬼火狩りだ」
彼はことことシチューを煮込んでいる。
「そういえば、お前は女を追ってきたんだったな」
「そうなんです。彼女を追ってこの世界にきたので」
初めて彼らを見たときは、僕は食われるかと思った。
「ははは、まあオレたちは人は食わねえから安心しろよ」
彼らが糖分を好きなのは、今も変わらないのだろうか。
僕はシチューをおそるおそる食べる。
心なしか、少し甘い気がした。
「村長のところへ行ってみろよ。何か知ってるかもしれねえ」
○
場面は数時間前へさかのぼる。
とある蜂(はち)の王国と遠上可憐の声。
「やめてください!」
兵隊の蜂人(はちびと)が彼女を掴む。
「お前を私の嫁にする」
黄色い王様の声が怪しく響く。
辺りには蟻人(ありびと)の死体が転がっている。
彼女の頬に涙がこぼれる。
「お願い…助けて…」
○
村長の館へと向かう。
「すいません」
僕は門番に声をかける。
「なんだ」
何だかいかつい声だ。
「村長にお会いしたいのですが」
「しばし待たれよ」
門番が屋敷の中へ入っていく。
数分経って戻ってくる。
「だめだ」
「そんな…」
「村長は忙しいのだ」
「お願いします!大切な話があるんです!」
「…しばし待たれよ」
門番がもう一度館へ入っていく。
数分後戻ってくる。
「だめだ」
「そんな…!」
「村長は忙しいのだ」
僕は怒りが込み上げてくる。
「人の命がかかってるんだ…!!」
辺りのランタンが大きく燃え上がる。
鬼火が大きく光る。
周囲が共鳴するように明るくなる。
「な、おまえ魔術師か…!」
「知るか…!村長に合わせろ…!」
僕の鼓動が速くなる。
心臓が激しく脈を打つ。
僕の身体が熱くなる。
「…しばし待たれよ」
門番は再び屋敷の中へ入る。
そしてもう一度戻ってくる。
「来い。村長がお呼びだ…」
(あとがき)
だいぶ世界観ができてきました。