鬼火ランタン 〜怪談部の夢物語〜
10 異世界への扉
僕は嬉しいやら悲しいやらで僕の心は泣いている。鳴っている。崩れる音が。積み上げてきたものが。崩れる音が。
僕は君を忘れるために話したり動いたり遊んだり食べたり出会ったりしたけれど、そうしてたとえば今はまだ好きではないけれどきっと好きになるであろうあの子や、とても可愛いし個性的だけれどちっとも僕に振り向いてくれないあの子や、僕のことを追っかけていたけれどいつの間にか彼氏を作ったあの子や、とにかく僕のキャパシティの出来得るかぎりなるべく努力してこうして現在にいたるのに、君はたった一度僕の目の前を通り過ぎるだけでそれらを全て壊してく。崩れてく。僕の打算や幻想が。そしてまた僕は君に浮かれてしまうんだ。そうしてる間に、君はまたふわふわと何処かへ消えていく。シャボン玉のように。
そして僕の夢は覚める。
僕は君相手だと文章を書きすぎる。確かに文章力は上がったけれど平気で長文を送りつけてしまうようなことが君相手だと平然と起こる。そして僕はまた自己嫌悪に陥り電源を落として放り投げるんだ。
僕は夢の中でいつも同じ女の子に恋をしている。それももう7年もだ。それはつまり夢の中の7年ではあるけれど、4年で恋は冷めるという言説を僕の夢は平気で越えていく。僕は夢の中の彼女へ恋文のような詩のような小説のような文章を書き続ける。そして黒い歴史を更新する。いや、これはむしろ純粋な白い歴史というべきか。
僕たちは深夜の学校にいる。僕たちとはつまり数学教師と僕のことだが、なぜ僕たちはこんなことをしているかというと、それは当然僕たちに目的があるからだ。数学教師は言った。「犯人はクラスの中にいる」 僕はそれを生徒の誰かだと思っていた。しかしクラスの中にはもうひとり人間がいる。担任の先生だ。ゆるふわ系巨乳化学教師の。確かに生徒の中に怪しい呪いなど使えるやつがいるはずもなかった。それを言ったら担任の先生だってそうだけれど、彼女はどうやら夜な夜な何かやっているらしかった。帰りの昇降口で、数学教師は彼女を見かけたというのだ。僕たちは、夜の学校で彼女を待ち伏せすることにした。
「ねえ先生」
「なんだ」
「どうして男二人でこんなことを」
「必要にかられてだ」
「先生一人じゃだめなんですか」
「中年男のストーリーなんて誰が見るんだ」
「最近はそういうのもありますよ」
「おれたちの頃はスポコンか魔法少女なんだよ」
「どちらでもないじゃないですか」
「たしかに」
僕たちがくだらない話をしていると目の前から誰か来た。
「あれは、夢花?」
「あいつこんなところでなにを」
「それを言ったら僕たちだって」
「おれたちには目的があるだろうが」
「それなら彼女にだってあるのでは」
「目的が?」
「ええ」
夢花が昇降口を入って中に消えていく。
「おれは彼女を追う」
「え、ちょっと僕はどうすればいいんですか」
「お前はここを見張れ」
「そんなちょっと待ってくださいよ」
先生は夢花の後を追って校舎の中へ消えた。
僕は物陰で立ち尽くしている。ここからはちょうど校門と昇降口が見える。
時刻は1時30分。
校門に人が表れる。あれは。
「可憐?」
ちょっと待ってどうしてこんな所に可憐がいるんだ。夢花ならまだ分かるが、可憐はいったいここで何を。僕の中で疑問符が溢れる。
僕は可憐を追うことにした。当初の目的など忘れてしまった。
図書室の前で僕は彼女の足音を聞いている。
僕は可憐の様子をうかがおうと首を伸ばすが、可憐は部屋の奥にいて姿を見ることはできない。
僕は図書室の方へ一歩踏み出す。
すると、扉の開く音がした。
扉?図書室に扉なんてあったか?
僕は急いで物音の方へ進む。
床が開いている。
こんなところに、地下室が。
僕は地下室の階段を降りる。
地下室が光っている。
可憐が何かつぶやいている。
「可憐!」
その瞬間、可憐は扉の向こうへ消えた。
僕は可憐を追って飛び込む。
「やはりあなたでしたか」
「まあね」
数学教師とゆるふわ巨乳化学教師の会話。
「で、夢花はどこへ?」
「異世界よ」
暗闇から男がひとり。
「おまえは…」
「こんばんは、先生」
ヒデが不敵に笑う。
「お前らグルなのか」
「ええ」
化学教師が答える。
「彼には色々と手伝ってもらったわ」
「そうか、まさか共犯とは」
彼女のハイヒールが響く。
「私たちは彼女の開いた扉を使って、異世界へと旅立ちます」
「彼女を利用したのか」
「ええ、代償なんて払いたくないもの」
「それなら正規ルートで」
「あら、あなたが封印してるんでしょ?」
「そこまで知ってたのか」
「それじゃ」
二人は闇の中へ消えていく。
数学教師は彼らを追い、異世界へと旅立つ。
(あとがき)
やっと本編です。