りぐと星座と空飛ぶ猫*
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「空飛ぶ猫を知ってる?」

それは私が5歳の頃のお話です。

母は毎夜、私にお話を聞かせてくれました。

「空飛ぶ猫を見た人は、どんな願いも叶うんだって」

母は色々な世界を飛び回って、その経験を幼い私に話すのでした。

ある日、私がベランダからお月様を眺めていると、空から虹色の羽根が落ちてきました。

「鳥さんかしら」

私が暗い夜空を覗くと、なんだか丸っこいものが空を飛んでいました。

「きっとフクロウさんだわ」

私はいつまでもその丸っこいものを眺めていました。





星座泥棒。

街に噂される消えた星座の謎。

空に飛び回る黒い影。

それを追うなんだか丸っこいもの。

この街に、一体何が起きているのか。





りぐはおつかいに来ていました。

「こんにちはー」

街のパン屋さんです。

中は香ばしくて良い匂いがします。

店内には男の子がいました。

「よお」

「あなたはだれ?」

「おれの名前はハルさ」

「しってる」

それはいつものやり取りでした。

彼は鍛冶屋に住む8才の男の子です。

私たちはおばさんからパンとコーヒーをもらって話します。

それがおつかいの楽しみなのです。

私は角砂糖をたっぷり入れて、温かいコーヒーを楽しみます。

「きいたか」

「なにを?」

「星座が消えてるって話」



影。

秘密結社「星の金平糖」にうごめく黒服集団。

その真ん中に鎮座する男が一人。

「夜空に光などいらぬ。闇は光がないからこそ美しいのだ」

彼らは光エネルギーを金平糖に変える技術を開発、夜空に輝く星の光を吸って、日夜ぼろ儲けしているのだ。

「星座などくだらぬ。いつまで過去の誰が作ったかもわからぬ規則に付き合うのだ。過去など塗りつぶせ。私は今を生きているのだ」

力強く握ったグラスが割れた。

「星座など俺が塗りかえてやる」

室内に響く笑い声。

ガタンゴトンと金平糖の機械が鳴った。



「で、どうするの?」

「おれたちで乗り込むんだ」

「ほんとに!?」

「何の話をしてるのかな」

「わ、おじさん」

「そろそろ日が暮れるよ。早くお帰り」

彼らはパン屋さんに挨拶をしてお店を出ます。

「じゃ、今日の夜に。みんなには内緒だぞ」



夜。

闇夜を切り裂く怪盗が一人。

ある時はパン屋の優しいおじさん。

ある時は妻をいたわる健気な夫。

しかしその実態は、星の光をダイヤに変える、白い怪盗、只今見参。

どどん。

彼の虫眼鏡は、星の光を一点に集め、ダイヤに変えることが出来るのだ。





羽根の生えた彼女は虐められていた。

キモチワルイ、ドッカイケ、心に突き刺さる言葉は止め処なく、自ら羽根を食い千切った。

彼女の背中には、今でも傷跡が残る。

途方に暮れた彼女を拾ったのは、一人の男だった。

彼は傷ついた背中をそっと撫で、そして家へ連れ帰った。


星の光が強いと、今でも背中が疼く。

彼女は背中の痛みに耐えながら彼に話しかける。

「なぜあなたは白いスーツなの?」

「コスプレなのさ」

怪盗に白いスーツなど必要ない。

闇に溶け込む必要があるのだから。

しかし、彼がコスプレだというのなら仕方ない。



「なんでお弁当持ってきてんだよ!」

「え、だってえんそくでしょ?」

「バカだなあ、乗り込むんだよ」

「えんそく♪」

りぐはうきうきしながら歩きます。

金平糖の噂はよく聞きますが、工場に行くのは初めてなのです。

金平糖は星から出来ると噂でした。

街に広がる噂はこんなものです。

金平糖は星の光から出来ていて、彼らが金平糖を作るたびに星が一つ消える。

彼らの最近の業績は異常で、このままでは星がなくなってしまう。

しかし大半の大人は信じません。

そんなの誰かのやっかみごとだろう。

信じる方がバカなのだと。

彼らは工場の裏口、壊れたドアの隙間から入ります。

中はガタンゴトンと機械の音がして、明かりは薄暗く、気をつけないと転んでしまいそうです。

「ねえ、こわいよ」

「大丈夫だって。おれの服を掴んで」

「やだ、ひだりて」

りぐは彼の手を掴みます。





「今日は何をするの」

「わるいやつをこらしめるのさ」

「あなただって怪盗じゃない」

「私はいい怪盗なのさ」

「そんな怪盗いるの?」

「さあ、私にもわからない」

彼らは夜の街を、屋根伝いに歩く。時々通りすがりの鴉と目が合う。

工場の真上。

煙突を覗き込む。辺りは静まり返って人の気配はない。

「ん?」

工場の裏口の方に、人影が見える。

「きゃっ」

黒猫が足を滑らす。

煙突の中へ真っ逆さま。咄嗟に羽根を伸ばそうとするが、彼女に羽根はない。

猫は深い闇の中へ消えた。





輝く金平糖が宙を舞う。

機械の中で眠る猫。

身体が光っている。

背中から羽根が生える。

周囲の金平糖が光り出す。

部屋を埋める金平糖は輝く星のようで、きらきらと光り部屋を照らす。

猫は夢を見ている。

それはかつての辛い記憶。

煙突から落ちた猫。

金平糖の機械へ真っ逆様。





「ねぇ、あそこなんか光ってるよ」


彼女が向こうの部屋を指差す。

金平糖の機械から漏れる光。

それは零れるようなものではなく、眩いほどの光だ。

浮かび上がる金平糖。



その瞬間、金平糖の機械が爆発した。



辺りを光の爆発が包み込む。

飛び散る破片が宙に浮かぶ。


それらは少しずつ形をなし、そして変形していく。



そこに現れたのは、紛れもなくロボットだった。



「なにあれ…」


彼らは言葉を失った。

それは今にも動き出しそうな、乗り物のようなロボットだったからだ。


中心部から発する光。

そこには黒猫が閉じ込められている。


黒猫の中心に発するエネルギーは凄まじいものであり、それらは光の爆発として周囲に広がり、金平糖や機械がそれに共鳴し、そこにロボットが生まれた。


「どうしよう…」


ロボットの目が光る。


「にげよう!」


ロボットが動き出す。


「緊急事態発生!緊急事態発生!」


緊急警報が鳴る。赤いランプが光る。廊下を走る。動き出す機械。閉じ込められた猫。


「ボス!光エネルギーが大変なことに!」

「何だ…この数値は…」


追いかけられて辿り着いた先は何もない広場。倉庫だろうか。段ボールが転がっている。

ピュン。


レーザーにより消し飛ぶ箱。


二対一の対決。


ロボットの目が光る。


少年が後ろに回り込む。機械の首が一回転して彼を追う。

その隙に少女がポシェットに詰め込んだ小石を投げる。

カラン。弾かれる石。飛び出るビームと焼ける袖の臭い。痛い。少女は俯く。大丈夫か!叫ぶ少年の声。

鉄パイプで思い切り叩く。びくともしない。振られる腕。少年が吹き飛ぶ。

ガハッ。

少年の口から血が零れる。目が霞む。どうしよう。誰か。助けて。


「待たせたな」


弾けるリズムにぶつかり合う杖と腕。ダイヤモンドと機械の鋼鉄。火花散る激しい争い。

少年はただその場で立ち尽くす。

僕もいつかあんな風になれるだろうか。

彼女をあんな風に守れるだろうか。

機械の猛烈な攻撃に杖が吹き飛ぶ。

「まずい」

宙に浮く彼の身体。


怪盗の最後。


千切れた腕に血が流れる。

うわあああ

木霊する悲鳴。賢明にシャツで止血する。

聳え立つロボットの姿に少年は震える。

僕はここで死ぬのだろうか。

震える少年の肩を叩く少女の手。


「泣いちゃだめだよ。男の子なんだから」


少女は杖を手に取り祈る。すると少年の身体が光る。


ふわりと軽くなる少年の身体。力が漲る。


「あいつの弱点はおそらく首だ」


怪盗の声。

少年はロボットを見据える。

杖を握って走る。


シュン。

駆ける少年は眼にも止まらぬ速さ。

機械の腕が伸びる。

たちまち腕を駆け抜け肩まで登る。杖を肩に突き刺す。

ショートする機械の腕。

少年は思い切り首めがけて杖を振り下ろす。

その時機械の右腕が少年を掴む。

苦しい。助けて。

光り出す杖。

共鳴する機械の中に宿る猫。

機械の動きが止まる。

光の中。少年は声を聞く。


「全てを断ち切れ」


突き刺さる杖が発光し辺りを包む。

機械が星の光になって消えていく。


工場に集められた星の光の結晶は、分解され宙に浮いて消えていく。

ぐたりと倒れる空飛ぶ猫。

羽根が生えたままだ。

少年は駆け寄り猫を抱く。

さっきの声はもしかして。

猫は少しずつ光り出し、そして分解されていく。少年は驚く。


「私は思い出しました」


猫が語り出す。


「私はかつて星の精霊だったのです」


猫の羽根はかつての名残り。

星の光と共鳴し、その姿を思い出したのだ。

暴走する光の中で、猫は自分の本当の姿を思い出した。

星の結晶を開放した猫は、空に帰らなければならない。


「さようなら。私はその役目を果たしました」





「いったい何が起きているのか」

自らが招いた事態を把握しきれないボス。

消えていく自ら集めた星の結晶。

工場の周りは、宇宙から見てもわかるぐらい光り輝いている。

猫と共に空に帰る星の結晶。

少年は安堵し深い眠りに着く。

少女が少年の頭を撫でる。

長い冒険の終わり。





「そういえばお願いするの忘れたね」

空飛ぶ猫を見たものはどんなお願いも叶うのです。

「そうだね。でもさあ、もう決まってるでしょ」

二人は向かい合って笑います。

パン屋さんでおやつを食べながら二人はこそこそ話します。

明日は星座流星群。短冊を書いて吊るします。


お店の前に吊るされた二人の祈り。

星の精霊の名の下に。

奥からおじさんが出てきます。

かつて失った右腕には、ゆるやかな傷が残ります。

光る右腕。再生する肉体。短冊に吊るされた言葉。


「おじさんの腕が治りますように」


空には沢山の流れ星が光りました。



(あとがき)

原案:りぐさん
文章:N.S




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