ある国の東西戦争
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朝日が昇ってくるのはいつものことで、だけど僕はそれに感謝する。平和な一日。何もない一日。全てが揃っている一日。平凡な一日。何とでも言えるが、かけがえのない一日だ。

戦争が終わったのはほんの数週間前のことだ。東地区と西地区の争い。両者はいつの間にか兵隊を揃えて、一戦交えるようになった。

きっかけはほんの些細なことだ。

「東地区と西地区はどっちがすごいの?」

女の子はそのように質問した。

東地区の長はこう答えた。

「おれたちはたくさんの奴隷がいるからな」

西地区の長はこう答えた。

「わたしたちはたくさんの職人があるからな」

彼らは争うことになった。きっかけはほんの些細なことだった。

名目上は奴隷解放戦争だった。しかし両者のプライドを掛けた争いだった。元々仲は良くなかったのだ。東地区は奴隷を増やし、西地区は職人を育てた。簡単な仕事は安価な奴隷が賄うことになった。質は最低だった。職人たちはそれに怒り心頭だったが、住人は安いものを求めた。


僕は空を流れる雲を眺めて、あの時のことを思い浮かべる。僕は彼女のことを守るのに必死だった。彼女の名前はエリーと言った。


戦争が始まるとまずは東地区に奴隷が集められた。彼らは迷うことなく奴隷を戦場に駆り立てた。彼らは戦う訓練など受けてはいなかったが、彼らは数と実践で勝負した。

西地区の職人たちは自分たちで武装を始めた。ある者は武器を作り、ある者は鎧を作り、自分たちで出来ることは何でも自分たちでやった。彼らはどんな時にでも手を抜かない。それが人殺しの道具になってもだ。

西地区の職人たちは次々と奴隷を殺していった。しかし次から次へと奴隷は現れた。彼らは殺してもキリがなかった。実質奴隷たちは職人の50倍は人数がいた。一人50人など相手に出来るはずもなかった。

僕はある職人ギルドで、靴職人をしていた。まだまだ見習いではあったが、皮から作る一つの作品に丹精を込めた。良い靴は良く長持ちした。だから上手い職人ほどリピーターは少なかった。そうは言っても、人が人を呼び、口コミで広がる世界だった。

僕はある時、ある女の子と出会った。それは靴職人の師匠であるエドガーの娘だった。名をエリーと言った。彼女は大変可愛らしい紅い髪をしていた。しかし、それは異端の証だった。

紅い髪の者たちは異端者だと言われていた。しかし僕はその理由を知らなかったし、また彼らがどこへ連れて行かれるのかもしらなかった。彼女は奴隷になった。これは国の命令だった。紅い髪の者は集められ、東地区の奴隷となった。


僕は慣れない煙草を吸う。彼女との思い出を振り返る。空に流れていた雲はいつの間にか消えていた。


戦場で僕は彼女と出会った。彼女は両手に剣を携えて華麗に舞っていた。美しかった。僕は呆気に取られていた。

なぜ紅い髪の者たちが奴隷に選ばれるか。それは、紅い髪の者たちは天性の武力の才能があったからだ。確かに彼らは訓練されていなかったが、その才能は戦場でこそ遺憾なく発揮された。国は彼らを奴隷として雇い、戦時の時にそれを活用したのだ。

それに反旗を翻したのが西地区だ。何しろ彼らは自分の娘たちを奴隷として奪われていたからだ。彼らは国の政策に従っていたが、エドガーがリーダーとなり反政府軍を立ち上げたのだ。


僕は彼女と目が合う。彼女がゆっくり話し始める。

「ごめんね、ユーリ」

「エリー…どうして…」

「わたしね、快楽に目覚めちゃったの」

「快楽?」

「そう、人をころす快楽に」

彼女はそういって両手の剣を振り上げてきた。僕はとっさに剣で受け止める。

「ごめんね、もう止まらないよ」

「なんで…」

「だって気持ちいいんだもん」

彼女は回転して僕の腹部を深く斬りつける。

「うわあああ!」

僕はその場に倒れる。彼女が僕を見おろす。

「エリー、やめるんだ」

後ろからエドガーの声がする。

「パパは黙ってて」

「エリー、良い子だから」

エドガーの悲しそうな声が響く。

「パパはこうなることを見越してママと結婚したんでしょ?」

彼女の母親はすでに死んでいたのだ。苛酷な労働によって。

エドガーが彼女に斬りつける。

「邪魔しないで!!」

エリーの剣がエドガーの喉を切り裂く。辺りに血しぶきが飛ぶ。

「ああああっ」

倒れる音。僕は彼女の靴ひもを解く。両靴を縛り付ける。

「ちょっとなにしてるの」

僕は彼女を押し倒す。

「君は僕のものだ」

僕は彼女に口付けをする。

そして彼女の長い髪を、剣で切り裂いた。



「ユーリ、なにしてるの?」

後ろから彼女の声がする。

「ああ、空を眺めてただけ」

空はもう雲ひとつなくなっていた。

「もうすぐ朝食だからね」

朝日が僕を染める。僕は平和に浸る。



(あとがき)

お題:平和と朝日




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