血だらけの女
僕が希望に満ち溢れているなどと誰が言ったか知らないが、僕は今にやにやしている。大変ニヤニヤしている。なぜにやにやしているかといえば、それは僕が宝くじに当選したからだ。
宝クジの金額は三万円。諭吉さんが三枚。僕は諭吉さんの使い道について考える。当然性欲に満ち溢れた僕の使い道はデリバリーヘルスだ。女の子を金で買うのだ。それしかない。しかし本当にそれでいいのだろうか。他に有効な使い道があるのではないか。射精した後に来る虚しさを考えれば、一時に起こる快楽ではなく、継続的に使える何かに投資するべきではないか。何しろ僕は童貞だった。セックスなんてただ穴に棒が入るだけじゃないか。
脳内にまで見栄を張る僕があれこれ考えていると、目の前に女の人が倒れている。頭から血が流れている。大変だ。通報しなくちゃ。警察に。いや救急車に?
「大丈夫ですか!」
僕が女の人に手をかけようとすると僕は勢いよく地面に手を付いてねんざした。
「痛っ!?」
え、なに?なにが起きた?あれおれ女の人の身体をすり抜けて地面に手をぶつけたあれおかしいな。おれエスパーでも身に付けたかな。
女の人が血だらけの顔でこちらを向く。
「どうしました?」
こっちのセリフだよ!
「いやあの、大丈夫ですか?」
女の人の顔を眺めるがどう見ても大丈夫には見えない。
「あ、大丈夫ですこれがデフォルトなんで」
デフォルト?
「え、あのどういう」
「あ、わたし地縛霊です」
地縛霊でした!
「あ、そうなんですか」
僕はここで冷静に考える。あれおれ霊感あったっけな。いや、そんなはずはない。
「幽霊なんですか?」
「はい、そうです」
彼女は見事な笑顔を見せてくれたがしかし頭から血が流れている。出血多量である。
「あの、具合とかわるくないですか?」
「あ、はい、痛覚とかないんで」
なるほど。とりあえず痛くはないのか。
これ僕はどうすればいいんだ?
「痛たたたっ」
僕のねんざが急に痛みだした。
「あ、大丈夫ですか?」
「あ、すいません大丈夫じゃないです」
もう右手が完全に腫れている。
「どうしよう?」
「いやあなたは自分の心配だけしてください」
「え、でもケガしてるし」
「いやあなたも血が流れてますから」
とりあえず帰るか。
「あ、じゃあわたしはこれで」
これはもう見なかったことにしよう。
「あの、待ってください」
「え?」
「わたしも連れてってください」
「いや、え?」
「わたしここから動けないんです」
「でしょうね」
「だから、お願いします」
いや、これどうすればいいんだ?なんか変なのに絡まれてるぞ?
「どうすればいいんですか?」
「背後霊になります」
「え?」
気付くと彼女は僕の背後にいた。
「よろしくお願いします」
「うおおお背後霊になった!」
僕は彼女を連れたまま部屋に帰り少し冷静になったところでそういえばデリヘル代が浮いたなと考えた。親切とはたいてい下心と繋がっているのだ。
「あの、僕とセックスしてください」
「はい?」
「僕とセックスしてください」
「あの、わたし背後霊ですけど」
「あ、僕は童貞なんで大丈夫です」
「意味がわかりません」
「お願いします」
「その情熱をべつに向けてください」
「いや、いまそれどころじゃないです」
「ふぅ」
彼女はため息をついた。
「幽霊とセックスって出来るんですか?」
「出来ないことはないです」
「そうですか」
「あなたの精神的なものに繋がれば」
「なるほど、では精神的な交流というわけですね」
なんと素敵な言葉だ。
「わたしはそんな見ず知らずの人とやるほどゆるい女じゃありません」
「もう部屋まで上がってますけど」
「あっ…」
少しの沈黙。
「寿命が縮まりますよ」
「かまいません」
「精神のエネルギーを放出するということになるんですから」
「一向にかまいません」
僕の頭はすでに彼女とのセックスで頭がいっぱいである。
彼女は少し困惑した後、こくんと頷いた。
時刻は23時50分。僕は童貞を捨てる。
僕は彼女の薄い洋服に手をかける。しかし僕の手が透ける。いや正確にいうと彼女の服が透ける。忘れてた!
「いやちょっと透けちゃうんでどうにかしてください」
彼女はそろりそろりと服を脱ぐ。頭からはいまだに血が流れているが僕は気にしない。彼女は下着姿である。
「これ僕は触れないんですけどどうやって楽しめばいいんですかね」
「精神エネルギーを繋げばなんとか」
彼女が手を差し出す。僕は彼女と手を繋ぐ。すると彼女のエネルギーが僕に流れてきて、なんだか一つになった気分になる。僕は彼女に触れようとする。
彼女が消える。
「え?」
あれ?消えた?
その時僕は知らなかった。彼女が24時になると死んだ場所に帰るというシンデレラガールだったということに!
(あとがき)
お題:希望の僕