女優の悲しみ
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好きなことをひたすら追いかけていたら、時間が経つにつれて邪魔者扱いされるようになった。年を取るということは、用済みになるということなのだろうか。

私は顔で売ってきたわけではないから、演技はそこそこできるし、コメディ寄りではあるにしても人一倍努力を重ねてきた。見た目はいつか崩れるから、私はその時を見越して演技を磨いてきたつもりだ。しかし若い女の子がどんどん入ってきて、観客は年寄りのおばさんよりも若い女の子やかっこいい男の子を見たがるから、中堅のおばさん女優なんてほとんどいなくなり、私はいつの間にか大物女優と呼ばれるようになった。そういうレッテルを貼られたのだ。そうしておけば、彼らが扱いに困らないから。

私は年を取るのがこわい。それは美貌がなくなるとかそういうことではなく、ただ単に私の可能性が狭まっていくからだ。年を取るほどに私の選択肢は狭くなり、また私の行動範囲も狭くなった。選ぶことよりも、守ることのほうが多くなった。増やすことよりも、手離すことを恐れた。


私には不倫相手がいた。ある番組で出会ったプロデューサーだ。私にも相手にもすでに家族がいた。それでも二人でいるのはすごく楽しかった。夫とはとうに冷え切っていて、会話もほとんどなかった。家には寝に帰るようなものだった。私も夫も完全にべつの生活をしていた。私はこのまま年を取るのがいやだった。ただ無意味に過ぎていく時間に嫌気が差した。私は夫も子供も捨てて家を飛び出した。しかし彼はそんな私を見て戸惑い、君とは一緒になれないとはっきり告げた。私はどうかしていた。私にはもう帰る場所がなかった。私は何もかも捨ててしまったのだ。

そうして私は現在の位置にいる。完全にイメージは黒く染まってしまったが、しかしそんなことは関係なかった。私にはもう守るものがないのだから。



(あとがき)

お題:長年第一線にいた大女優の弱い一面

青木健一さん @aokikenichi




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