火ランタン 〜怪談部の夢物語〜
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6 深海


僕は夢の中で息をする。

ここはどこだろう。

水の中だ。

深海のような静けさに

僕は耳を澄ます。

呼吸は不思議と苦しくない。

海面から光が漏れる。

ときおり魚が

僕の目の前を通り過ぎる。

僕は水の中で丸くなる。

それは

まるで胎内にいる赤子のようだ。

海面から漏れる光が強くなる。

光の中で

僕は目を覚ました。



朝の匂いは夜とは違って、どこか懐かしくて、そしてなんだかそわそわする。いつもとは違う、どこかの旅館にでも来ているような錯覚が僕を包む。なんだろう、それはたぶん爽やかな朝の匂いだ。夜の不穏な気配を跳ね飛ばす、朝の爽やかな匂いだ。

今日は気分が良いので、僕は調子に乗って紅茶を飲む。パックなので味は薄い。しかしこういうものは雰囲気を楽しむものであり、素敵なティーカップとささやかな香りさえあればそれで良いのだ。

ウォークマンを聞きながら、僕は学校へと向かう。

「少しは上達した?」

可憐が僕に向かって聞く。

「うん、たぶん」

僕は家でこつこつと練習する。紙と鉛筆で、円と線で図形を描く。それはなんだか美術の時間に似ているけれど、正確を期すという点で設計図を描く技術の時間という方が近い。


朝の学校には、爽やかさの欠片もない。

男子たちが教室の後ろで殴り合っている。

僕はカバンを置いて席に着く。

「なにやってんの」

「ああ、ストレスでも溜まってんじゃないの」

ヒデが漠然とした言葉でその場を説明する。

「高校になってまだやってんのか」

「さあ」

中学でもそんなことがあったなと、僕は思い出した。一方的に殴る男子に僕のアドレナリンが反応して身体が熱くなった。僕はその彼を殴りたいと思った。しかしだからといってサッカー部の彼に美術部の僕が適うはずもなかった。

僕はサッカー部が苦手だった。小学生の頃から彼らは学校にのさばり、野蛮に学校を支配した。中には仲のよい友達もいたが、大半は暴力的な荒んだ性格の者ばかりだった。そんな彼らを見て、僕はサッカー自体が野蛮な競技に思えた。今でも僕はサッカーが苦手で、そしてサッカーをしている人が苦手だ。

「ちょっと男子やめなよー」

委員長が彼らに声をかける。後ろの男子たちはまだ殴りあっている。殴っているのはサッカー部で、殴られているのは卓球部だ。歴史は繰り返すのかと僕は思った。

「え、ちょっとヤバいんじゃない…」

周りの女子がざわざわしている。それにしても、早くしないと先生が来るぞ。



熱は万物の根源である。そこにエネルギーが発生することによって、人は物事に惹かれ、興味を持ち始める。熱が引き始め、エネルギーが低下すると、人はその対象に飽き始める。それでは、熱はどのように発生するのだろう。それは、摩擦である。何らかの物質がぶつかり合うことによって、そこに摩擦が生まれ、そこに熱量が生まれる。それならば、何かをぶつかり合わせれば言い訳だ。物事に飽きたならば。エネルギーを成長させたければ。そうして人は肉体をぶつかり合わせて性交をし、刀をぶつかり合わせて決闘をし、信仰をぶつかり合わせて戦争をした。そこには確かにエネルギーが生まれたが、感情的に、プラスの出来事とマイナスの出来事が確かに存在した。エネルギー自体には善悪などおそらくない。しかし、人はそこに感情的な判断を下す。それが自分たちにとってプラスであれば善とみなし、自分たちにとってマイナスであればそれを悪とした。

今、ここに一つのエネルギーが生まれた。

それは深淵の闇から生まれた歪みだ。それはより大きなシステムの一部であり、均衡を保とうとする世界の働きなのかもしれない。人が命をかけて求めてきた善という何かに、限界がきたのかもしれない。それは確かに、物事を無に帰すエネルギーだ。それこそ、闇そのものである。



教室の声が止んだ。

何かあったのだろうか。

僕は後ろに向かって歩く。

黙って立ち尽くしている女子の隙間から顔を覗く。

彼の目がつぶれている。

卓球部の男の子の目だ。

彼は目から血を流している。

彼の目に刺さった棒状のものは、シャープペンシルである。

彼の目にシャープペンシルが突き刺さっている。

教室のドアが開く。

担任の女の先生だ。

「君たち、何やってるの?」



(あとがき)
ティーバッグとティーパックとティーバックとTバックがあるけれど、ややこしいのでパックと表現しました。



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