桜が咲き乱れ、春特有の気だるげな空気のせいで、布団から出るのが億劫になる。それでも行かなければならない。私は体を起こした。
高校生になって二度目の春は、それはまあ緊張して仕方なかった。不安とドキドキを抱えて入学式に行って、クラスに同じ中学の子が一人もいなくて泣きそうになっていたら声をかけてくれた子もいた。その子とはずっと仲良しだ。そして今日は始業式である。友達と同じクラスになれますように、と目の前で手を合わせてクラス替えの紙の前で祈る。未だに怖くて、目を開くことができない。

「おいそこのブス、邪魔だからさっさと見ろよ」

引っかかるところがたくさんある発言に、わたしは目をパチリと開いた。うしろにいる男子を見る。案の定わたしの想像していた人物と一緒だった。
口を尖らせながら「うるさいな」と呟く。

「わたしはこれからの人生がかかってんの」
「オトモダチの話?一緒だったから早くどけろよ」
「え、うそ!」

わたしは反射的にクラス替えの紙をみる。一組から、目を凝らして探すと、「こっち」とわたしがいるであろうクラスを指差した。上から順に見ていくと、真ん中あたりに友達の名前、その下にわたしの名前があった。

「わ、わあ…!あったあった!」
「言ったじゃん」
「いや〜成宮くんの冗談かと」
「ほお〜。失礼なやつ」

びよん、と頬をつねられた。わたしは痛い痛いと成宮くんの胸板を叩く。成宮くんはすぐ離して、「ほら行くよ」と歩き出す。わたしは疑問を持ちながらその背中についていった。

「ねえ成宮くん」
「なに」
「成宮くんはどこだったの?」
「はあ?お前見なかったのかよ」
「え、うん…」

自分と友達の名前を探すので精一杯で、というと成宮くんは呆れたようにため息をついた。
行くよと言ってくれたので、きっと同じクラスか、近くのクラスなんだろうな。わたしはごめん、と謝った。

「…や、別に謝んなくていいけどさ。同じクラス」
「え、同じクラス?」
「なんだよ。お前俺と同じで不満なわけ」

成宮くんは拗ねた口調で聞いてきた。わたしは慌てて「いやいや」と言ったけど、少し考えて、「うん」と頷いた。

「成宮くん横暴だし、人をパシリに使ってくるし、暴力マンじゃん」
「なんてった?」
「痛い〜!」

二の腕をがっしりと掴まれてしまった。自信満々に言ってしまったから気に障ったんだろう。いや、発言内容もあるだろうけど。だけど成宮くんは本気で怒っているわけではない。どこか楽しげに、私を見ていた。

成宮くんと私は、一年の時同じクラスだった。席替えというクラスの中で一番重要な行事でも言えるだろうソレを行ったばっかりに、私は成宮くんの後ろの席になった。最初は他人行儀だったが、段々と私も、成宮くんも緊張が解けて言ったのか、冗談を言い合う仲になった。そして、授業中に折れたシャー芯を私の机に落としてくることも多々あった。。迷惑きわまりないことばかりしてくる彼だが、それが彼の仲良しさんに対しての表現なのだろうと私はわかっていた。

校長先生の長い長い話も終わり、LHRも終わり、解散となった午後。私は新しく友達になった人たち(2年目にもなると、友達作りも上手くなるものだ。)とご飯を食べに行くことになっていた。
私は先生に出さなければいけないプリントがあったので、出しに行ってくるから校門あたりで待ってて、と友達に言って職員室へと走った。
帰り、普段は使わない一回の渡り廊下を使った。花壇や、大きな木、ベンチもある。たくさんの発見をした私は、今度ここへ来よう、と考えながら友達の元へ行こうとすると。

「――付き合ってくださいっ」

そんな、女の子の声が聞こえた。
私は声のする方へ向く。花壇の近くに、男女が立っていた。一人は、しらない女子生徒、もう一人は野球部の練習着に身を包んだ男子生徒――

「成宮くん…」

彼がモテるのは知っていたが、まさか告白現場に遭遇するとは思わなかった。私は盗み聞きしていると思われたら嫌なので、そこから離れようとした。だけど、どうなるのか気になる。見るぐらいなら、いいよね。私は自分に言い聞かせ、少し遠くにいる二人をみた。
女の子は泣いているように見えた。フラれたのか、それとも、告白を了承されたのか。私は怖くなって、そこから離れることにした。最後に二人を見た時、成宮くんと目があった気がした。

次の日、私は昨日のことが気がかりなまま、教室に入った。成宮くんはまだ来ていない。気になる。だけど聞けない。そんなモヤモヤを抱え、机に顔を伏せた。成宮くんが誰と付き合おうと、私には関係のないことなのに。なのに気になって気になって仕方ない。

「寝てんの」

頭上から成宮君の声が聞こえる。顔をあげると、いつもと変わらない表情をして、私を見下ろしていた。

「考えごとしてたの」

私は頭を抑えた。私が考えていることは、成宮君には知られませんように。

「あのさ、昨日、いただろ」

突拍子に、単刀直入に、成宮君は私に聞いて来た。私はすぐどのことか分かり、頷いた。はあー…とため息をつく成宮君が、なんだか少し怖かった。

「聞こえた?」
「女子の声は聞こえたけど、成宮君が何を言ったのかは聞こえなかったよ」
「ふうん。そう」

成宮くんは私の隣の、空いている席に座った。

「俺モテるんだよ。知ってた?」
「うん、じゅーぶん」
「こんな引く手数多な俺が、彼女作らない理由知ってる?」
「坊やだからって神谷くんは言ってたけど」
「ちがうし!カルロあとでしめる!」

雰囲気ぶち壊しだ、とぷんすか怒る成宮くんに私は笑った。あの言い方からすると、あの告白は断ったのだろう。そして、一応彼女を作らない理由はあるのだろう。大方、野球で忙しいとか、単純に好きな女がいないとかだろう。

「じゃ、なんなの?」

予想していた答えを選択肢にして、誰が当たるかを考えながらにこにこと成宮君を見つめる。私の反応が予想外だったのか、う、と成宮君は怖気付いたかのように顔をのけぞらせる。

「そ、それは…」

窓を開けているので、涼しげな風が吹いてくる。柔らかな春の匂いを感じながら、私は成宮くんの返答を待つ。いつの間にか私はモヤモヤがとれていた。成宮くんの少しだけ赤い頬、耳に笑みが溢れる。彼女を作らないその理由を教えてくれるのは、もうちょっと先の話。

君との春の行方

「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -