まだ肌寒く感じる4月。クラス替えでざわめく教室の窓から外を眺めていた。今年もまた、同じように始まって同じように終わるのだろう。桜も散り、自然とため息が出る。中学3年の春。


『隣、空いてますか?』

「あぁ、どうぞ」

『どうも』


見たことのない顔だと思った。うちの学校は生徒数も少ないから、わからないなんてこと無いはずなんだけど。少し気になって話し掛けた。


「俺佐伯、君は?」

『天根』

「天根?」

『弟がお世話になってます』

「ということは…ダビデの」

『姉です』


すちゃ、と二本指で挨拶したかと思うと、無表情のまま前に向き直ってしまった。無表情加減はダビデとそっくりだ。駄洒落も言うのかな。それにしても…ダビデに姉がいるとは聞いてたけど、六角にいるなんて知らなかったな。







「あぁ、うちの姉ちゃん一年のときから留学してたから」

「留学?どこに?」

「ドイツに行ったのはどいつ?…ぶふっ」

「ダビデェエ!」

「ちょ、バネさんタンマ!」


留学、ね。知らないはずだよ。なんだか楽しくなりそうだ。テニスコートに向かい走り来る赤い自転車に、自然に頬もあがる。


「ダビデ、お客さんだよ」







今までは早く学校に来るのも億劫だった。テニスコートも開いてない。早く行けば行くほど、女の子たちに声を掛けられる。逃げ道もない。

だけど今は君がいる。どれだけ早く来ようと、君はいつもの席に腰掛け本を読んでいる。たまに花の水をかえたり、先生に仕事を頼まれたり。少しでも多く話がしたくて、早起きになっていく自分に気付いた。はじめから惹かれていたのかもしれない。

それでもきっとこの気持ちは伝えることはないだろう。

君が早く学校にいる理由。

学校に乗りつけた黒いリムジン。


『今日は迎えに来なくていいよ』

「あーん?」

『近所のおばちゃんびっくりするから、来るなら駅にして』

「わかった、サボんなよ」

『誰に言ってるの』

「ふ、じゃあな」

『ありがとう――景吾』


君の隣には、すでに彼がいた。


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