『千石ー!亜久津ー!』

「お久しぶりー!」

「相変わらずうるせーな」

『言われてるよ千石』

「俺だけ?!」

『それにしても久しぶりな気がするね』

「そりゃそうだよ、三人揃うの跡部くんの婚約パーティー以来でしょ?半年振りだよ」


中学校を卒業して8年が経った。今はそれぞれが別の道を歩んでいる。裏路地の小さな店でかれこれ話しこんでるうちに三時間が経っていた。







「俺さーなまえのこと好きだったんだよ」

『知ってたよ?ねぇ亜久津』

「わかりやすいからな」

「え!」

『あ、迎え来たみたい』

「南?」

『うん』

「荷物、持ってやる」

『亜久津が優しいとか…槍降る?』

「殴るぞ」


あれから私はずっと南と一緒だ。喫茶店の扉を開けると、前に着けた車から聞こえる泣き声がすごい。そして愛しい人の困り顔。


「なまえ、どうにかしてくれ…」

『はいはい、なんでパパは駄目なんだろうねぇ』


抱き上げる小さな命。私と南の子供だ。私が抱くとすぐに泣き止む。数時間で南がぐったり。そして当の本人は亜久津に笑顔を向けている。


『亜久津に愛想振り撒いてるし…将来が不安なんだけど』

「あ?」

「俺のことはすごい嫌いなのにね」

『そこは健ちゃんに似たんじゃない?』

「南ー!」

「俺のせいじゃない……と思う」







2年前、私と南は結婚した。それから長女を授かった。結婚するときは親に反対されるかとも思ったけれど、やっとかとも言いたげな顔で祝福してくれた。一番反対していたのは千石だったりする。

二人に別れを告げて、家へ向かう。三人で住んでいる小さなマンション。それでも幸せが溢れている。


『けーんちゃーん』

「ん、寝たのか?」

『今はぐっすり』

「お前も休めよ?」

『今は甘えたい気分?』

「ならこっち来い」


南と私の関係は学生時代とちっとも変わっていない。変わったとすれば、私が不良じゃなくなったことくらいだ。南の膝の上に座って一緒にテレビを観る。


室町は学生時代から付き合っていた彼女と別れただとか、壇の初彼女は越前くんそっくりだとか、そんな話をしながらまったりと過ごす。


「なまえ、俺男の子も欲しいな」

『健ちゃん次第じゃない?』

「頑張らせて頂きます」

『へんたーい』


お互いにくすくすと笑いあう。振り返って腕を回せば一層近づく距離。あと少し。





追いかけっこ






そんな時に泣き声が部屋中に響き渡った。


『今は駄目だってさ』

「おあずけか」


二人一緒に、愛しい我が子の元へ。

理想の日々との追いかけっこ。ゴールのない道。大切な友人と、愛する人と共に、限りない幸せな日々を歩んで行こう。


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