『………』

「早く用意しろよー」


結局この間の試合は意外にも南の勝利。私から言わせて貰うならば、千石は最後に手を抜いた。最初から南を勝たせるつもりだったみたいだ。私がそれに気付いたくらいだから、南だって気付いただろう。あえて何も言わないのは、千石の考えが分かってしまったから。


『どこ行くのさ』

「どこ行きたい?」

『南ん家』

「……そんなんで良いのか?」

『出掛けんの面倒だし』







久しぶりの南家。南母にはそれはもう驚かれた。何しろ半年振りの再会だ。通い慣れた家。変わらない間取り。階段をのぼって突き当たりの部屋。半年前と何も変わっていない。


『おばちゃん変わってないね』

「半年で変わられても困るけどな」

『南は老けたね』

「誰のせいだ」

『え、私?』

「主にはな」

『ふーん』


では恒例のあれをやろうと思います。南に喉渇いたとかなんとか言って部屋から出した。







さぁてここからが仕事の始まりです。まずはベッドの下!んー…何もない。クローゼットは……ない。至る所見たけれどそれらしいものは出て来なかった。最後は勉強机の引き出し。まさかこんなところには入れてないだろうけど。恐る恐る引き出しを開けた。


『あ……』


出てきたのはいかがわしいものでもなく、一つの箱。それには見覚えがあった。私の家にも同じ物がある。一周年記念に、お揃いで買ったネックレス。そして付き合って唯一、二人で撮った写真。


「まったくお前は、」


後ろから伸びて来た手が引き出しを閉じる。どうして、なんで、そればかりが頭を過ぎる。振り返れば南が苦笑した。







「なんでって顔すんなよ」

『でも』

「言っただろ?」

『え、』

「俺はお前を好きでいるって」

『もう半年前じゃん』

「半年で俺の気持ちが変わるとでも思ったか?」

『それは…』

「………」

『………』

「…この際だからよーく聞け」

『ん』

「俺は今でもお前が好きだ、できれば前のような関係に戻りたいと思ってる…でもお前の気持ちを最優先にしたい、だから…、今のお前の気持ちを教えてくれないか」


そんなこと、半年前に別れてから後悔ばかりが募っていった。浅はかだった自分の考え。きっとたくさん、たくさん傷付けた。それなのにまだ好きだなんて言う南は、正真正銘の馬鹿だ。それでも私は、


『好きに決まってんだろーが馬鹿野郎!』


そんな馬鹿が大好きなんだ。

もう離れるものか、そう言わんばかりに回された腕は、互いに強く強く身体を締め付けた。


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