べりべりと継ぎ接ぎを剥いで、ウィッグも後ろへ放り投げる。ドライアイスが晴れると、会場がざわついた。
『なっ!』
「私は魔法使いだと言ったでしょう?そーれピピティパピティプー!」
張りぼて馬車が脇からやってくる。
『胡散臭い……馬車なのに馬が馬じゃない、一体に足が6本もある』
「ええいそれはこちらの事情だ!言わすんじゃないよまったく!」
お乗り!と馬車もどきに押し込まれる。
「いいかい?12時になると魔法がとける、それまでに帰っておいで」
『魔法使いのお婆さんタッパー持ってない?』
「何に使うんだい」
『料理をお持ち帰り』
さっさとお行き!と送り出されて脇へ。ステージは魔法使いの独断場だ。その間に化粧を直し、髪型も整える。
るんらるんらとスキップで魔法使いが捌けると、場面はお城。王が椅子にふんぞり返ったまま脇から現れる。黒子は大変だ。
「どうだ王子、美女揃いじゃないか」
「はぁ、しかし父上、私にはどれも芋や南瓜のようにしか見えません」
「これ王子、事実を言っては娘たちに失礼でしょう」
「すみません母上」
執事役が顔を引きつらせながら飲み物を出す。そこへ馬車がくねくねと蛇行しながら到着。
『ああ私の愛しい七面鳥!』
メイドの制止も聞かずに一目散に七面鳥へ。ダンス?そんなもの何になるの、七面鳥の代わりになるの?もくもくと食らう後ろ姿を王子が見ていた。
「……あの娘は何をしに来たんだ」
娘は到着したらまず王の前に頭を下げる。隣に座る王子へのアピールも忘れずに。なのにあの娘は周りに一瞥もなく、七面鳥一直線だった。おもしろい。
「父上、気分が変わりました」
「お嬢さん、私と一曲いかがです?」
きゃあああと体育館が女子生徒の歓声に包まれる。柳の微笑みは貴重だろうな。そう思いながらもちらっと見る演技をして七面鳥をのせた皿を下ろす。
『その誘い文句はマニュアル通りすぎて面白くない』
そう言えば柳の顔が引きつった。台本には『えぇ喜んで』だった。アドリブで柳はどうでる?
「私は七面鳥以下ですか?」
く、本気で七面鳥おいしく頂いてたのバレてる。
『今は七面鳥の方があなたより私のためになります』
「そんなにその七面鳥はおいしいですか」
『ええ、とっても』
「どれ、」
体育館に悲鳴とどよめきが起こる。
「とても、美味ですね」
仕返しだとばかりににやりと笑った柳の肩越しに、幸村の満足そうな顔と、部員達の唖然とした顔が見えた。
『な、な、なんで今だ!』
思わず漏れでた本音に早めの12時の鐘で慌てて脇へ捌ける。ダンスシーンすらなかった。靴を履いたまま捌けてしまったので慌てて柳目掛けて靴を投げたら柳の頭にクリーンヒットしてしまったけど私悪くない。