「じゃあ大丈夫だったのか」
『向こうが嘘ついてたんだって』
「なんでそんな嘘…」
『遊ばれた腹いせってヤツ?』
「うわ」
『女ってえげつないよねー』
「ちょっと二人共、その話俺の目の前でする?」
『だって…』
「なぁ…」
「なに?」
「『自業自得だろ』」
「う、」
妊娠騒動は質の悪い冗談だった。これに懲りたのか、最近は女の子と一緒にいるところを見ない。私は亜久津や南と、この状態がいつまで続くか賭けている。
それにこないだから千石はどこかすっきりしている。あのあとラッキーなことでもあったのだろうか。
それから、変わったことはもう一つ。
「なまえーあっくんにいじめられたー」
『重い!うざい!汗くさい!』
「ひどくない?あ、南ーなんか言いたそーだねぇ、なーに?」
千石は私を名前で呼ぶようになったし、スキンシップが激しくなった。思えば何故今まで名前で呼ばれなかったのか、不思議でならない。スキンシップはうざいくらいだ。そしてスキンシップした後は必ず南をからかっている。南はその度にため息を吐いて、私と千石を引き離す。ご苦労様だな。
「南、俺と試合しようよ」
「試合?なんで、」
「なまえとのデート権を賭けて!」
「「『はあ?』」」
部員揃って頭にはてな。とりあえず千石の頭が可笑しくなったんじゃないかと本気で心配している室町はシバいておこう。
「千石サービスプレイ」
「遠慮なく、行かしてもらうよ」
東方のコールで試合が始まる。いきなり虎砲。本気だ。千石の宣言の後、何を言うでもなくコートに入った南。お前シングルスできんのか?とか思ったのは内緒。みんなそれぞれの練習を打ち切ってこの試合に注目している。
「みょうじ先輩はどっちに勝って欲しいんですか?」
『どっちって言われても、実力的に千石が勝つんじゃないの』
「どっちですか?」
『聞いてた?』
「みょうじ先輩はそんなに傷つきたくないんですか?もう自分の気持ちにも気付いてるくせに」
『室町のくせに生意気だな』
「いい加減じれったいんですよ」
勝って欲しい相手なんて、ずっと変わりはしない。だけど言えない。心の中でがんばれ、それだけで精一杯だから。