灰かぶり。シンデレラらしくボロ(ピピティパピティプーでドレスに早変わり)を着て、化粧だけはばっちり仕込む。慣れない睫毛の重たさに瞬きも自然とゆっくりになる。
ウィッグで隠せば完成、のところで部屋がノックされた。変身後用に頭を結われている状態なので私は振り向くこともできないが、どうやら柳が来たらしい。きゃあきゃあと騒がしい。おい柳、ここ女子更衣室だぞ。
「少し歩かないか」
『えー頭が終わらない』
「大丈夫もう終わった!行ってきて良いよ!時間には戻って来てね!」
『伊佐木氏、頭にピン刺さってめっちゃ痛いっす』
「我慢して、ほら靴」
『や、さすがに本番用の靴はちょっと』
「なに言ってんの!」
『あ』
ベリベリッとボロの服を剥がされてドレス衣装。私の微妙な顔を汲み取ってくれるわけもなく、私たちは散歩と言う名の宣伝活動をするべく校内を歩き始めた。
「みょうじ、逃げるなよ」
『逃げないから手離してよ』
校内を歩き出したは良いものの、2年棟を歩き始めたところで野次馬に囲まれて身動きがとれない。人に紛れて逃走しようとしたものの、ぎゅうぎゅうと柳に手を握られてそれは適わなかった。
「あ!先輩ら何してんすか!てか手繋いでるし!やっぱ付き合ってんだ!」
赤也が手榴弾のように爆弾を投げ込んだ。混乱が混乱を呼ぶ。衣装だけは揉みくちゃにされないようにと気を使って足元ばかりを見ていたのがいけなかった。ぐるりと回る視界。襲う浮遊感。まわりのざわめき。
「続きは劇中で、」
「柳先輩まじかっけえ!」
色めき立ったざわめきにようやく我に返って暴れようと考えたが、早くこの場から去りたいことに変わりなかったので大人しくしていることにした。
「赤也、ガラスの靴を持って着いて来い」
「うぃ、うぃっす」
現実逃避に目だけは固く瞑って。くすりと柳が笑った声が耳を掠める。
「目覚めのキスでも必要か?」
くわっと目を開けば柳が笑ってよろよろと揺れた。落ちる落ちる!そう思うばかりに、気が付けばがっしりと柳に抱き付く形になっていた。
「なんだかんだ先輩らラブラブじゃないっすか」
とりあえず頭に刺さったヘアピンを一本抜いて赤也に投げておいた。