お昼になるとお客様はどんどん溢れる。ランチタイム限定のサービスが付いているからだ。
私も各テーブルに注文の品を届けつつ、お客様の視線を釘付けにしている2人を盗み見る。
このあと自分もやると思うと気がのらない。
「やぎゅ、おれ……」
「いいのですよ仁王くん、恥ずかしがることではありません」
きゃああああ!と盛り上がる。耳が痛くて仕方ない。平然な顔でお茶を出す柳。さっき耳栓してるとこ見た。ずるい。
この時間帯は映画方式で、1つのサービスごとにブースのお客様を入れ替える。見終わったお客様は隣のブースで物販、つまり公式に撮られた写真のブースで写真を買ってほくほくしながら帰られている。
全レギュラーがウェイターとして出回っているので、サービスがお目当ての人ではなかったとしても不満はないようだ。
さて、いよいよ私たちのサービスの時間がはじまる。お客様は今か今かとそわそわしている。もちろんお客様は誰がサービスするかは知らないし、私たちもいつ、どんなときにスタートさせるかは大体の時間しか知らない。ふと幸村と目が合う。時間がきたようだ。
がしゃん、と幸村がトレーを落とした。
『幸村!』
「ああ、すまない」
『やっぱりまだ本調子じゃないんだろ?』
「大丈夫だよ」
『無理するなって、手伝うから、な?』
「本当に大丈夫だって、どうしてそんなに心配するの」
『だって幸村、女の子みたいじゃん?』
どたん、と背中を床に叩きつけて押し倒される。あがる悲鳴にも似た歓声。
『いってーな!』
この野郎、本気でやりやがったな!
「誰が女の子みたいだって?」
『ゆ、幸村?』
「分からせてあげるよ、身体でね?」
ちょ、幸村サン目がまじなんですけど!え、ちょ、顔近付けんな!おいこら客!顔手で隠しつつ指の間から見てんじゃねえ!誰かあああああああああ!
「精市、そこまでだ」
「柳か、なに」
「そいつは俺のモノだ、返してもらう」
ぐいっと引っ張られて今度は柳の胸の中に収まる。胸に耳を押し付けて痛いくらいの歓声を遮れば、柳が左手で頭を抱え込むように私を抱く。お客様からは見えないように、私の両耳は塞がれた。しかし困ったことがひとつ。
2人の会話が聞こえねぇ!
気付けば柳は左手を離し、今まで以上に痛い歓声が私の耳を直撃した。どうやら最高潮に盛り上がって終わったらしい。
お客様が恍惚の表情で私と柳を見ているのはなぜだ!そして幸村の笑顔が怖いのはなぜだ!2人は何の話をしてたんだ!
誰か教えてくれ!