『聞いてないよ!』
「俺も初耳なんだが」
最終リハーサルを体育館で行っているときに事は起きた。
「やっぱりキスシーンは必要だよな!」
『黙れキング!』
なんと今になって総監督がキスシーンをご所望だ。どうして今更…!なくてもいいじゃないか!シンデレラじゃなくてツンデレラなんだから!
『台本にないじゃん!しかもキスシーン入れるとこなんて一つもない』
「同感だ」
柳と二人揃って反論するも虚しく、ツンデレラがデレるシーンが追加されてしまった。なんてことだ!絶句している私に柳が言う。
「……犬にキスをすると思えばいいか」
「おお!王子が受け入れたぞ」
『は!?』
「みょうじもツンデレだもんな」
「イケメンとキスできるんだから美味しいだろ!」
おい従者A・B!お前らには後ろで殺気を放つ義母と義姉が分からないのか!勘弁してくれ!
「じゃあキスシーン込みで最後の通しリハいきまーす」
『いやだあああああああ!』
や り き っ た !
死に物狂いで柳からのキスを避けてやった!格闘すること5分、最後は柳の鳩尾に一発。
本番もこんな感じで!と総監督が言うけれど……避けるのに必死だったからどうするべきか考えていなかった。本番は柳がアドリブでなんとかしてくれるだろう。
「なにも鳩尾に入れなくとも……予想外だったぞ」
『柳も中々しつこかったね』
「お前の後ろで王と女王が舞台上でずっとカンペを出していたからな」
『ちょっとキングしめてくる』
「たかがキスの一つや二つ」
『柳……あんたはもっと硬派な男だと思っていたよ』
「誰も口にしろとは言っていなかっただろ?」
『なるほど!じゃあ手の甲にしよう!』
「ふ、映画の見過ぎだな」
『うるさい』
2人並んで座る体育館裏。中ではみんな後片付けにあくせく働いている。
「みょうじ、」
『ん?』
手が暖かいものに包まれて体を引くが、思ったよりも強い力で握られていて放れない。
『ちょ、なに』
「私と、結婚して頂けますか」
まるで映画のワンシーン。やっぱり映画の見過ぎなのかな?
目線は私に向けたまま、手の甲にそっと口付ける。
柳は自分が絵になるってこと、自覚した方が良いと思う!今は赤くなる顔を隠すのに必死だ。
「くく、」
『笑うなし』
「いや、お前も可愛いところがあるんだなと思って」
『〜〜っ!柳の阿呆!』