瞬く間に噂は広がり、私と亜久津は停学。噂は噂を呼び、亜久津と私ができているだなんだ、校内では話が持ち切りだと毎日千石からの電話で聞いた。南のことは一言も話さない。千石なりの優しさだったのだろう。だけど私はもう堪えられなかった。彼女を傷付けたことも、自分が傷付くことも。手は自然と携帯を手にしていた。


「もしもし、なまえ?」

『南』

「久しぶりだな、大丈夫か?」

『南、』

「……なんだ」

『別れて、ください』

「………」

『………』

「…わかった」

『ッ、じゃあ』

「だけど」

『?』

「俺はお前を好きでいるから」

『ッ!』

「じゃあ、また、学校で」


切れた電話。涙が止まらない。どうしようもなかった。解放されると思っていた。だけど、どうにもならなかった。胸の痛みだけが強くなる。







それから何日も飲まず食わず。亜久津がたまたまうちに用事がなかったら死んでいたかもしれない。亜久津は買ってきたコンビニのおにぎりを私に無理矢理食べさせると、私をバイクの後ろに乗せて走り出した。着いた先は病院。私が怪我させた彼女の兄のいる病院。私は行けるはずもなかった。そこでも無理矢理亜久津に担がれて運ばれたのだ。どう罵倒されても仕方ないと思っていた。


「本当に、すまなかった」

『どうして…』


病室に入るや否や、私は彼に深々と謝罪された。何も謝る必要なんてないのに。しかし彼に聞かされた話に愕然とした。私たちに喧嘩をけしかけたのは業と。彼女が実の兄に頼んだのだ。わざわざ亜久津と一緒にいるときを狙って。自分が南に近付くために。

それを聞いて何をする気にもならなかった。ただ呆然とするしかなかった。最愛の人との別れ、大切に思っていた友人に裏切られ。そのときの感情を表すならば、無。なにも感じることができなかった。何もかもが遅かったのだ。







彼女は数日後に転校、私は学校に行く気にもならず、家にこもりっきり。そんなときにうちに南がやってきた。


「ちゃんと飯食ってるか?」

『一応』

「まさかカロリーメイトだけとかじゃないだろうな?」

『………』

「図星かよ!」

『食べたら吐く』

「吐いてでも食え」

『ふ、』

「……笑ったな」


そのときの南の微笑みは至極穏やかだった。今でも覚えている。それからは学校にもたまに行くようになったし、南とは友達として接するようになった。始めはぎこちないものだったが、今では落ち着いたものだ。

それから私はテニス部のマネージャーになった。彼女がいなくなってぽっかり空いた穴を埋めてくれたのは南や亜久津、千石、壇、室町…テニス部の奴らだ。南は気まぐれで私をテニス部に入れたと言っていたけれど、今では感謝する他ない。


「おい、寝てんじゃねぇ」

『んーもう着いた?』


彼の背中が心地良いことも久しぶりに思い出した。


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