気にならないと言えば嘘になる。手塚部長の幼馴染のあんぱん女。それでも俺は、河原の彼女の方が気になる。

日課のロードワーク、河原では自然とゆっくりになる自分がいるのは確かだ。今日も何かを食べながらじーっと対岸を見ている。何も面白いことはないと自分は思うけれど、彼女の目にはそれが興味惹かれる何かであるかもしれない。視線を彼女から逸らそうとしたときだった。

強い風が吹いて、彼女の手から何かが飛んだ。そして俺の足元で止まる。胸が高鳴るのを必死で抑えつけてその飛んで来たものを拾い上げようとすると彼女がこちらに向かって来るのに気付いた。顔があげられない。







ん?これは……、


『すいません、ありがとうございます』

「あ、いや」


口いっぱいに押し込んで礼を述べた彼女。それよりも、俺は彼女の手に渡ったソレから目が離れない。


『あ、まだたくさんあるんで良かったら食べます?あんぱん』


手塚部長の幼馴染、絶対この人だ。

あんぱん女が河原の彼女だったなんて。意識が遠くなっていく前で、彼女があんぱんをちらつかせる。


『美味しいですよ!』

「……頂きます」


決して彼女の笑顔に負けたわけではない。







『3-1のみょうじです』

「2-7の海堂っす」

『年下だったのか、毎朝走ってるよね、陸上部かなにか?』


彼女が知っていたことに驚きつつも、テニス部だと返す。


『テニス部?国光の後輩?』

「っす」

『あ、じゃあレギュラーの海堂くんか!』

「知ってるんすか?」

『きみの打球は面白い音がするから、よく覚えてるんだ』

「音?」


にっと笑って立ち上がったみょうじ先輩につられて立ち上がる。彼女の手にはまた新しいあんぱんが握られていた。


『そろそろ行くね、縁があったらまた会おう』

「っす」


あんぱんを食べながら、時折ふんふん鼻歌を歌い、土手の整備された階段ではなく雑草の茂る坂道をかき分けてずんずん進んでいく。

変わった人だ。

でも彼女には惹かれる何かがある。自分の手に残るあんぱんを口に押し込み、いつもよりスピードを早めて家へ戻る。足取りは驚くほど軽かった。


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