「なまえさん、それどうしたんですか?」

『頂いたの、素敵でしょう?』


彼女が嬉しそうに花束を抱えて談話室に戻ってきた。きっと贈り主は男性だ。それでも花が薔薇でなくて良かったと思っている自分に気付く。彼女が嬉しそうに薔薇を抱えていたら、僕はそれを奪い取って暖炉にでも放り込んでしまいそうだ。気持ちを押し込んで彼女の背中を見送る。


「レギュラス、」

「なんですか、先輩」

「眉間に皺が寄っているぞ」


名前を呼ばれて慌てて手を動かすけれど、先輩が気になっていたのはどうやら深く刻まれた眉間の皺だったらしい。思わず先輩の方が、と言いそうになったのは胸にしまっておこう。







彼女と僕の関係は、ただの先輩と後輩ということだけではない。兄の元婚約者と元婚約者の弟という関係だ。兄さんがグリフィンドールに組み分けされたためにその話は白紙に戻された。そのまま話が僕に降りてくれれば良かったのに。

彼女の家は厳格なスリザリン家系だ。スリザリン家系ではあるが、彼女の家系は闇ではなかった。闇の中に唯一灯る光、それがみょうじ家。貴族の中でも三大旧家に数えられるほど偉大な家系だ。そこの一人娘となれば、魔法族の貴族たちは黙っちゃいない。

彼女には婚約者候補が星の数ほどいるらしいと風の噂で聞いた。だから兄さんがグリフィンドールに組み分けされただけで婚約解消、というのも頷ける話だった。







所詮は親の決めた話、先月一週間彼女の姿が見えないと思えば、両親に結婚相手は自分で決めると啖呵切ってきたらしい。

お陰で先月から毎日のように彼女はホグワーツ中の男子生徒に愛を告げられるんじゃないかと言うほどだ。もちろん家柄が関係しなくとも、彼女は性格も容姿も魅力的だ。お陰で僕のライバルは星の数以上にいることだろう。


「はぁ」

「どうした?」

「いっそのこと、いやそれは駄目だ、返り討ちにあって僕がお陀仏してしまう」

「…………」

「はぁ、」


まったく、あなたはヴィーラのような人だ。


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「見えない臓器の名前は」
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