彼女と会話を(と言うよりも言葉と言う方が正しいが)交わすのは、専ら図書館だった。
それはネクタイの色が違うこともあるけれど、普段僕の周りで喧しい彼等を連れずにすむ絶好の場所だったからだ。決して彼等が嫌というわけではないことは頭の隅にでも置いといてもらいたい。
今日も僕たちは少し埃っぽい分厚い本が収められた棚の間で同じ時を過ごす。
「やあミスみょうじ」
『ハーイ、ミスタールーピン』
「今日は呪文学と魔法史?」
『そんなとこ』
視線すら合わせない彼女は、左手に持った一輪の薔薇に向けて杖を振り、呪文学の確認をしている。テーブルでは自動書記羽ペンがせわしなく文字を綴っていた。もちろんこれは誰にでもできることじゃない。呪文学の練習の成果だろうか、みょうじの足元には大量の薔薇が落ちていた。
「どうせ増やすならチョコレートにしてくれれば良いのに」
みょうじは曖昧に笑ってごまかした。僕も手に持った魔法薬学のレポートに取り掛かるとしよう。みょうじの前に腰掛けると、薔薇の香りが一層鼻をくすぐった。
一息吐くように羽ペンをインク壺に突っ込んで伸びをして気付く。自然と口元が開く。大量にあった薔薇はいつの間にかなくなって、大量のチョコレートがテーブルに積み重なっていた。
『がんばりすぎのルーピンにプレゼント』
「え、」
『監督生お疲れ様』
滅多にお目にかかれない彼女の微笑に、体温があがる。
「ありがとう、でも」
ローブの右ポケットに入っていた杖をとって一振り。
「みょうじも、監督生お疲れ様」
『気障なことをするのね』
くすくすと可笑しそうに笑う彼女に、自分がやったことに少々恥ずかしくなる。
『ありがたく頂きます』
「僕の方こそありがとう」
チョコレートの山は半分、彼女にはもう半分をマーガレットに変えて。
花言葉は、真実の友情。